王と騎士とお姫様【月永レオ】 (ページ10)

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隠れ姫⑥ ページ10

ひとしきり泣いた後、あたしは自分でもびっくりするような行動をとった。

ダッシュで音楽室に戻り、ケータイと楽譜と鍵盤のみの台座がないピアノを取って、ダッシュで慰霊碑の前に戻る。

充電式で、プラグを刺さなくてもいいそのピアノを地面に置き、風で楽譜が飛ばされないようクリップで止めて、あたしはそっと指を添える。

あたしは、慰霊碑の前で、名もない音楽たちに世界を与えた。

詩は無いから自分で思いつく限り言葉をつづった。

喉に響かない程度に、声に出した。

指を傷つけないように、全力で鍵盤を叩く。

あぁ、こんなのも悪くない。

誰かが残した才能の欠片。

それを拾い集めてあたしが繋ぎ合わせれば。

ほら！こんなにも素敵な音楽が生まれるの。

誰もいるはずがない、この慰霊碑の前で。

あたしは何故かたくさんの人に囲まれて、これも弾いて、あれも歌ってと言われた気がして、次々に音を完成させていく。

最後の楽譜を歌い、弾き終えたところで、ようやく気づいた事。

後ろで誰かがあたしの世界を見ていたこと。

あたしが踏んだリズムに似た調子でさく、さく、と近づいてくる何かは、あたしに声をかけた。

「ねえ、あんた。どこから来たの。」

クルリと振り返れば、猫のような瞳でこちらを見る男の子。

背はそれなりに高いし、なんだかプライドが高そうだ。

銀色の髪を風でユラユラと軽く揺らしながら言う彼は、なんだか、なにかに縋るような、あたしを何かに重ねているような。

そんなに、悲しい顔をしないでよ。

手を伸ばしてもなにかに縋り届かない。

その大人びた顔は、まるで、大事なものを無くしてしまって泣きわめいている子供に見えた。