【◇】倉持君はプロ野球選手#S4

一七七試合目 ページ39

(洋一視点)




地方遠征で三連戦を勝ち越したチームは、お祝いムードが漂っていて試合のミーティングが終わるとすぐに飲み会へ。

ワイワイはしゃぐ仲間達の声を聞きながら、ふと時計に視線を向けた。時刻は既に日をまたいでいて、よい子は寝ている時間だ。

電話しようか、どうしようか。自分に問いかけながら勧められた煙草を手にし、火を灯し咥える。そして腰を上げ、尻のポケットからスマホを取り出した。壁紙の家族写真を眺めながら、煙草を吹かす。

(どうすっかな…)

夏は無理でも、Aの声くらい聞きたい。遠征からまだ三日とは言え、少し寂しい気持がない訳ではない。だが育児で疲れ、Aが寝ている可能性だってある。

明日にでも電話することにして、スマホを仕舞おうとした時、着信音が鳴った。尻までやったスマホをまた目の前にやる。

着信はAからだった。画面に表示されたメッセージを見て、思わず頬が緩む。

『勝ち越しおめでとう！このまま目指せ、四位浮上！今頃、飲んでるのかな？明日は試合かないからって飲み過ぎないでね』

「どうしたんすか、洋さん。ニヤニヤしちゃって」

不意にチームメイトに話しかけられる。綻ぶ頬を隠すように煙草を咥えた。紫煙をフッと吐き出し、スマホを振る。

「妻から」

「あ〜、美人の。写真見せて下さいよ」

「洋さん、奥さんの写真誰にも見せねえから」

「え〜、何でっすか？」

「何で見せなきゃいけねぇんだよ」

悪態を吐くと、チームメイトは俺を疑いの目で見て言う。

「もしかして美人っていうのは、メディアが仕組んだイメージ？強面＋美人って美女と野獣っぽいですよね」

「否、あの御幸と鳴が美人って言うんだから、美人だろ」

「どっちにしろ、十二月に披露宴で顔拝めるだろ」

「ちょっ、誰も十二月に披露宴するって言ってないっすよ！」

先輩の余計な一言に、噛みつく。と、俺が去年のヒーローインタビューの時にした公開プロポーズの話しになる。

顔の熱が上昇するのを感じながら、煽ったビールジョッキをダンッと音を立て机に置く。

「披露宴は無理っすよ！」

「洋一〜、無理無理言ってるけど、実際挙式の段取りは進んでんのか？身内だけつっても、場所にドレスとか前準備があるのに、お前は家に居ない。奥さんは赤ん坊にまだ手のかかる子どもがいるんだぜ」

「大まかな準備までなら」

「んな事言って、子どもと野球にかまけてるんじゃないの？」

先輩の言葉に呆然としていると、持っていた煙草の灰がポロリと落ちた。


.

一七八試合目→←一七六試合目

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す