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社長室は秘書室の奥にあった。秘書室はガラス張りで、オフィスから秘書の男性の様子が伺える。秘書の男性は私が幼い頃から働いている男性で、冗談が通じないくらい根が真面目だ。髪の毛をきっちり七三に分け、ポマードで髪をなでつけている見た目から容易く見分けられるだろう。
そんな彼は融通というものを知らない。家族である私ですら、多忙な父に会えるまで2週間という月日がかかった。亮介さんはお父さんの義理の息子にも関わらず、見舞金と一万円はする果物籠を送りつけてきただけで顔を見せる事は無い。
ノックをした。性格の問題か、仕事とプライベートを割り切るタイプなのか秘書は私を見てもにこりともせず扉を開け、頭を下げた。
「社長は奥でございます」
「ありがとう」
素っ気なく言って扉に向かった。明るい木の色の扉。ノックをすると父の声が聞こえたので、ドアノブを回し中に入る。
「葉瑠、久しぶりだな」
資料を顔の前から降ろす。掛けていた老眼鏡を外し来客用ソファに座ると手前にあるソファとテーブルを差した。私は腰かけ、父の顔をじっと見つめる。
父は私の前に座ると、足を組み久しぶりに会った家族らしい会話を口にした。それがあまりにもドラマの一場面の様だったからか、私は辟易した。亮介さんが生死を彷徨ったのに、亮介さんを心配する一言がなかったせいかもしれない。
「それで、私に何を頼みたいんだい?」
娘の為だ、なんでも聞くよと言い出しそうな口ぶりに、更に胸がむかむかしだした。否、もしかしたらそんな事を言い訳にして、父親の前から立ち去る言い訳が欲しいのかもしれない。そして、私がしようとした事をうやむやにしてしまうのだ。
だがもう後戻りは出来ない事は分かっていた。意を決し、ギュッと拳を握ると口を開く。思わず、視線を落とした。
「亮介さんが高校時代に付き合っていた女性の居場所をご存じでしょう?」
父の顔が険しくなる。肘掛けに肘を突き、頬杖をついて人差し指を真っ直ぐ上に向けた。
「何故、彼女の事を知っている?」
「色々あったんです」
便利な日本語だ。大抵の場合こう言えば、根掘り葉掘り聞かれることはない。
「知ってどうする?」
「亮介さんに会わせます」
「感心せんな」
「…」
「今の状態で二人が会えば、最悪どうなるか予想出来るだろう?」
「はい」
暫く、沈黙が続いた。ノックの音が沈黙を破る。秘書さんがお茶と茶菓子を持ってきてくれたのだ。
「ちゃんと食べてるか?」
何気ない父の言葉が、心に染みる。
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豆腐戦士(プロフ) - マヒロさん» マヒロさん、コメントありがとうございます!私の駄作品を読んで頂いたそうで、大変嬉しいです(^^)御幸くんの小説については本当にお待たせします。まだ書いている作品があるので。ご理解頂けると幸いです(^^)今後ともよろしくお願い致します! (2017年8月1日 18時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - すごい嬉しかったです!お忙しいとは思いますが頑張ってください。楽しみにしています!(途中で切れてしまいすみません!) (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - 長文、失礼します!ダイヤの小説全部読みました。僕のお気に入りもパシリになる小説で、御幸くんつらいなぁ…と僕まで悲しい気持ちになりました。ここにあったコメ読んだときに御幸くんの高校生の話から見れると書いてあり、御幸くんに幸せになって欲しかったので (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐戦士(プロフ) - ココアさん» 倉持くんのプロ野球の話で主人公の性格を変えたのは、おしとやかさより母親を全面に出したいと思ったので(汗)分かりました。御幸の話では性格変えずに書きますね。ご意見ありがとうございます。今後も作品共々よろしくお願いします(*´ω`*) (2017年7月23日 22時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
ココア - もし悩まれたらこの意見を思い出していただければいいなと思います!豆腐戦士さんが連載されるのを心待ちにして待ってます!他の作品も頑張ってください!いつまでも応援していますね! (2017年7月22日 19時) (レス) id: 02b943e900 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年10月22日 15時