【◇】交際期間０日＊３

１０５* ページ7

(亮介視点)



二人が帰った後、花瓶の花を見つめた。花にはそんなに詳しくない。ただ茶色い円から伸びる黄色い花弁の花は夏のものだと分かった。保育園児だって知っている。

太陽のある方向に花が向けられるから向日葵。英語ではサンフラワーだ。だが実際に花が太陽の方向に向くのは、茎の柔らかい時期だけという事は知られていない。

花瓶の向日葵は俺の方を向いていた。ただ太陽を追っているのかと思ったが、他の花の向きから考えるに俺から見た時の方向が正面らしい。

(きっと気遣いが出来る人なんだろうな)

普通、花瓶の花の向きを患者に向けるだろうか。見舞いに来た客が、俺の足元に立ち真っ直ぐ俺を見た時に花が正面を見えるように置くのが普通ではないだろうか。つまりこの花は俺の為に生けられたのだ。おもむろに置いたのなら話しは別だが。

花を見ていると扉をノックする音が聞こえた。返事を発しようとすると、俺が何か言うよりも先に乱暴に扉が開いた。滑らかな引き戸はその勢いのまま壁にぶつかり、ダンッと物凄い音を発てた。

一体何なんだと上半身を起こす。すると「亮介！」と名前を呼ばれた。小麦色にこんがりと焼けた肌の男が顔を出す。

思わずあっと声を零した。最近、社長に教えてもらった草野球の監督だ。確か、社長の息子と記憶している。おおらかな性格で、「いつでも練習に来いよ」と誘ってくれていた。忙しかった仕事もやっと落ち着きを取り戻したので、野球でもまた始めようかと思っていたのだ。

「芹澤さん…」

「お、おぉ」

さっきまで噴火直前の火山のように、怒りに燃えている雰囲気だったにも関わらず、名前を呼ぶとドギマギしだした。

「俺の事は覚えてるのか」

「あぁ、はい。まぁ…」

「妹の事は？」

「妹さん、いらっしゃったんですか？」

「否、良い。気にするな」

「はぁ…」

曖昧に返事をして、芹澤さんを見る。彼はベット脇の椅子に腰掛けると、手の平を見せ腕を広げた。

「すまんな、練習が終わってすぐ来たから何も持ってこなかった」

「良いんですよ。気遣いなんて」

「…そうか」

芹澤さんは「そうか」とまた息を吐くように言った。その顔はどこか寂しそうで、さっきの威勢が感じられない。

「芹澤さん？」

「可愛い妹なんだ」

そう立ち上がった芹澤さんを見上げた。

「純粋で世間知らずでさ。働いた事なんてないし、社会に出る意味を知らない。だから結婚させた」

意味が分からず、返事とも呆れともとれる声を発する。芹澤さんはただ苦笑いを浮かべた。


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