【◇】交際期間０日＊３

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(亮介視点)



唾を飲み込むと鉄の味がした。息を切らしながら、芹沢の表札に半ば飛び込むようにインターホンを押す。

俺の頭を怒りが占めていた。倒産しないよう、社長つまり葉瑠の父親は努力していることだろう。

そんなこと、分かってる。だからって娘を誘拐するのはやり過ぎではないか。否、そもそも何故そこまでして娘と俺の間を裂きたいのか。それが謎だ。

インターホンを何度か鳴らすと、不機嫌な義父の声がした。何の用だ。と誰が来たのかも確認しないのだから、俺が来たということは把握しているのだろう。

「何の用ですって？俺が此処に来たことくらい、貴方ならお分かりでしょう？」

「何のことかさっぱりだな」

この一言には流石の俺も、カッと頭に血が昇る。

「娘をさらったうえに脅迫してまで離婚させようとして、よく惚けていられますね！」

怒鳴ると、相手は一切話さなくなる。バレないとでも思ったのだろうか。考えが浅はかすぎる。

どうしようか。広い門の前で腕を組み考えていると、庭の奥から息を切らした義母がやって来た。俺の胸倉を掴まんとする勢いで、門の柵を掴むと柵の隙間から真っ青な顔を覗かせる。

「脅迫って？さらったって、誰を？どういうこと？」

「つい一時間近く前、動画が送られて来たんです。葉瑠が縛られていて」

縛られているの言葉に、義母は小さく息を飲んだ。今にも倒れそうな程、顔が青白くなる。

後から義父がやって来て、義母程ではないが険しい顔で柵を掴む。

「私が娘をさらう必要はないだろう」

「相手は離婚しろと要求したのにですか？」

その時、義母が腰から力を抜かしへなへなと座りこんだ。そんな、と小さく呟きポロポロ涙を流し出す。そんな義母に義父はそっと肩に手を置くが、鋭い視線でその手を睨み義父の手を払った。

「あなたのせいよ！娘一人の幸せより、社員の生活を選んだあなたの」

「まさかこんな過激な手段に出るとは思わんだろ。第一に、彼らの仕業かもまだ分からん」

「目的は金でもなく、葉瑠と亮介さんの離婚だって言うのに彼らのせいじゃないというんですか？」

「落ち着け。証拠も何もないだろ」

「お二人は、犯人に心当たりがあるんですか？」

二人を非難するようにそう言う。二人は申し訳なさそうに俺から視線を逸らす。

「倒産の危機に立っている事は、知っています。俺と葉瑠の離婚を求めるなら、俺にはその理由を知る権利があるでしょ？」

「…話そう。中に入りたまえ」

首を縦に振って、俺は足を踏み出した。


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