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父との食事会で呼ばれたのは、高級な料亭だ。個室に通され、そこで待つ。まだ父母は来ておらず、四人分のお箸とお皿が並べられただけだった。
「まだ来てないね」
「来ないかも」
仕事で忙しくて来られないとかしょっちゅうだったし。
亮介さんは「冗談でもそんなこと言うんじゃないよ」と笑って座った私のお腹に毛布をかける。
暫く待って先にやって来たのは母だった。お待たせと笑って私の正面に座る。
「お父さん、すぐ来るから」
「うん」
妊娠の報告をどうやってするか、考えるだけで肩が強張る。チラリと亮介さんを見ると、いつものように笑って母と話していた。絵の話とか、色々。私はご飯が喉を通らないくらい緊張してるのに。
すると不意に扉が開いた。「待たせたな」と言って父が入ってくる。忙しなさそうにコートを脱ぎながら。
「何だ、葉瑠。寒いのか?」
無愛想にそう聞かれ、私は首を左右に振る。今が言うチャンスだと口を開けたのも束の間。女将さんがやって来て、料理を運んでくる。
「山菜の天ぷら盛り合わせでございます」
運ばれたのはコシアブラ、フキノトウ、筍の天ぷらだ。
個々の皿に盛られていて、揚げたてのようで湯気が立っている。
「美味しそう」
「葉瑠、酒は?」
「い、要らない」
「亮介は飲むか?」
「頂きます」
お猪口に透明な液体が注がれる。母が「あんまり飲み過ぎないでよ」と注意する。
「さ、食べたまえ」
そう促す父をチラリとだけ見て、山菜の天ぷらに箸を伸ばす。この父の優しさが私は嵐の前の静けさに思えてならなかった。
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デザートの抹茶プリンを食べていると、父が「さて」と呟いた。まだ妊娠の報告が出来ていなかった私はビクリと肩を震わせる。
「1年になるが、このままズルズル行くわけにはいかんと思ってな」
「ズルズル?」
何の話だ?と私と亮介さん、母も首を傾げる。
「葉瑠、亮介は三上という女は浮気してる」
「お父さん、それは私達で解決した話で」
「問題は解決したか否かじゃない。浮気をしていたことが問題なんだ」
そう父はジャケットの内ポケットから封筒を取り出し、亮介さんに差し出す。封筒の中身は離婚届が入っていた。
「お父さんが決めることじゃないでしょ!」
「いいや、私が決めることだ。葉瑠の旦那には跡を継いでもらわないといかん」
「お義父さん、僕は離婚する気はありません」
お父さんが冷たい目を亮介さんに向ける。
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豆腐戦士(プロフ) - マヒロさん» マヒロさん、コメントありがとうございます!私の駄作品を読んで頂いたそうで、大変嬉しいです(^^)御幸くんの小説については本当にお待たせします。まだ書いている作品があるので。ご理解頂けると幸いです(^^)今後ともよろしくお願い致します! (2017年8月1日 18時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - すごい嬉しかったです!お忙しいとは思いますが頑張ってください。楽しみにしています!(途中で切れてしまいすみません!) (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - 長文、失礼します!ダイヤの小説全部読みました。僕のお気に入りもパシリになる小説で、御幸くんつらいなぁ…と僕まで悲しい気持ちになりました。ここにあったコメ読んだときに御幸くんの高校生の話から見れると書いてあり、御幸くんに幸せになって欲しかったので (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐戦士(プロフ) - ココアさん» 倉持くんのプロ野球の話で主人公の性格を変えたのは、おしとやかさより母親を全面に出したいと思ったので(汗)分かりました。御幸の話では性格変えずに書きますね。ご意見ありがとうございます。今後も作品共々よろしくお願いします(*´ω`*) (2017年7月23日 22時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
ココア - もし悩まれたらこの意見を思い出していただければいいなと思います!豆腐戦士さんが連載されるのを心待ちにして待ってます!他の作品も頑張ってください!いつまでも応援していますね! (2017年7月22日 19時) (レス) id: 02b943e900 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年10月22日 15時