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「ただいま」
玄関の扉が開く音と、亮介さんの声がした。料理をしていた私は、あっと声を上げてスリッパをパタパタ鳴らしながら玄関へ向かう。そこには私に背を向け、靴を脱ぐ亮介さんの姿があった。お玉を握ったまま、私は旦那様にぎゅっと抱き着く。
「亮介さん、お帰りなさい」
「ただいま。出迎えてくれるのは嬉しいけど、あんまりその身体で走らない方がいいんじゃない?」
そう亮介さんが上半身を捻り振り返ると、私のお腹をそっと撫でる。
妊娠三ヶ月。つい一週間前に病院に行き判明した。まだ私の両親にも、亮介さんの両者にも話してない。
亮介さんは真面目な人だから、電話ではなく会って話したいとそう言っていた。勿論、その意見には私も賛成だ。
「そうだ。お父さんが結婚して一年を祝ってくれるそうですよ」
「え?本当に?なんか、緊急する」
「亮介さんも緊急するんですか?」
「なに、俺は緊張感のない馬鹿って言いたいの?」
「違います!亮介さんは人生十回繰り返してるって言われても驚かないくらい、落ち着いてるんです」
クスクス笑って、亮介さんは首を左右に振る。
「そんなに何回も人生をやり直した覚えはないけど。俺だってご両親に子どもの報告とか、初めてで緊急するよ?」
「うちの父親、喜びますかね?」
何だか、イマイチ想像出来ない。
亮介さんは「デキた」て報告したら、一緒になって喜んでくれた。病院の途中買ってきた育児雑誌を一緒に眺めて、妊婦はどうするべきか、旦那はどう妻を気遣うべきかと知識を蓄えた。
名前も、お腹の子の性別が分かっていないのに、すでにどうしようかと悩んでいる。
「孫ができて、嬉しくない人なんていないよ」
そう亮介さんはネクタイを緩める。
そのネクタイを緩める手と、顔を左右に振った時に露わになる首筋がセクシーだ。胸がキュンとする。
「先、ご飯にします?」
リビングに移動し、亮介さんの後ろでスーツのジャケットを脱ぎやすいように摘まみ、袖から腕に抜かせる。
「ん、そうする」
「今日はお稲荷さんが食べたくて作っちゃいました」
ジャジャジャンと味が染みこんだお稲荷さんを見せる。油揚げに味が染みるよう、昼間からコトコトと煮て作ったのだ。
亮介さんは山のように盛った稲荷をひとつ摘まむと、パクリと大きな口で頬張る。三口程ちみ食べてしまうと、ぺろりと指を舐めて言う。
「葉瑠の作るご飯、最高だね」
指を舐める仕草、ひとつからも亮介さんの色気が伝わってきます。
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豆腐戦士(プロフ) - マヒロさん» マヒロさん、コメントありがとうございます!私の駄作品を読んで頂いたそうで、大変嬉しいです(^^)御幸くんの小説については本当にお待たせします。まだ書いている作品があるので。ご理解頂けると幸いです(^^)今後ともよろしくお願い致します! (2017年8月1日 18時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - すごい嬉しかったです!お忙しいとは思いますが頑張ってください。楽しみにしています!(途中で切れてしまいすみません!) (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - 長文、失礼します!ダイヤの小説全部読みました。僕のお気に入りもパシリになる小説で、御幸くんつらいなぁ…と僕まで悲しい気持ちになりました。ここにあったコメ読んだときに御幸くんの高校生の話から見れると書いてあり、御幸くんに幸せになって欲しかったので (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐戦士(プロフ) - ココアさん» 倉持くんのプロ野球の話で主人公の性格を変えたのは、おしとやかさより母親を全面に出したいと思ったので(汗)分かりました。御幸の話では性格変えずに書きますね。ご意見ありがとうございます。今後も作品共々よろしくお願いします(*´ω`*) (2017年7月23日 22時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
ココア - もし悩まれたらこの意見を思い出していただければいいなと思います!豆腐戦士さんが連載されるのを心待ちにして待ってます!他の作品も頑張ってください!いつまでも応援していますね! (2017年7月22日 19時) (レス) id: 02b943e900 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年10月22日 15時