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「亮介さんに会ってないお兄ちゃんには、分かんないのよ!亮介さんが私にどう接するのか、それがどんだけ苦しいか」
「あー、もう!分かった。今から見舞いに行ってやるよ !」
そう怒鳴ると、兄は私の腕を掴みチームメイトに「片づけて帰れ!」と叫びグイグイと私を引っ張る。
私も病院に連れて行くと分かり、腰を落として引き、兄が進むのとは逆の方向に進もうと足を踏み込む。
「ヤダ、行かない!」
「俺が一人で行ったらビックリするだろ!」
「春…亮介さんの弟が来てるから、大丈夫だよ」
「帰ってっかもしんねぇだろ」
「お父さんと約束があるの…」
「そうかよ!」
引っ張っていた私の腕を、兄は乱暴に放した。不意に引っ張られた力が無くなり私は尻餅をつく。兄も私に怪我をさせるつもりは無かったらしく、あっと口を開け私に手を伸ばしたがすぐ腕を引っ込めた。それは私が、キュッと唇を噛んで兄の事を睨んでいたからだろう。
兄は引っ込めた腕を撫で、怒りをぶつける様に腕を払うと行き場の失った手をズボンのポケットに突っ込んだ。
「あの外面ばっかのくそ親父が、離婚なんて許すとは思わねえけどな」
「違う。ある人と亮介さんを会わせたいの」
「まさかとは思うけど、亮介がずっと探してるって言った女じゃねえよな」
眉根を寄せ、兄が私を見下すようにして言った。
その一言で、兄も私と亮介さんの結婚の経緯を知っているのだと分かった。
「あの女には親父が借金返して、まともな仕事だって与えてやったんだ!それなのに、葉瑠がどうにかしてやる必要なんて」
兄が怒鳴りながら、私の肩を掴む。私は負けじと、兄の腕を掴み怒鳴り返す。
「じゃあ、何で私との4か月忘れちゃったの?何で、私と出会う記憶までぽっかり忘れたの?前と違う。もう亮介さんと春香さんの間に、私が入り込む余地なんてないのよ!」
すると兄は何も言い返せなくなった。私の肩を掴む手が緩む。
私は奥歯を噛み締め、兄の腕を振り払い身を翻した。
「っ…」
喉の奥からこみ上げる感情。目頭が熱くなり、ボロボロと涙が溢れ出した。
こうするしかないのだ。
薬指の指輪を外した。亮介さんが買ってくれた婚約指輪。中央のダイヤはお世辞にも大きいとは言えない。だがどんな宝石よりも、輝いていて、何にも染まることなく美しく煌めいている。そう以前の私ならそう思えた。
婚約指輪を握り締めた腕を高く振り上げ、そのまま腕を振り下ろした。固いコンクリートに向け指輪を叩きつけるように。
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豆腐戦士(プロフ) - マヒロさん» マヒロさん、コメントありがとうございます!私の駄作品を読んで頂いたそうで、大変嬉しいです(^^)御幸くんの小説については本当にお待たせします。まだ書いている作品があるので。ご理解頂けると幸いです(^^)今後ともよろしくお願い致します! (2017年8月1日 18時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - すごい嬉しかったです!お忙しいとは思いますが頑張ってください。楽しみにしています!(途中で切れてしまいすみません!) (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - 長文、失礼します!ダイヤの小説全部読みました。僕のお気に入りもパシリになる小説で、御幸くんつらいなぁ…と僕まで悲しい気持ちになりました。ここにあったコメ読んだときに御幸くんの高校生の話から見れると書いてあり、御幸くんに幸せになって欲しかったので (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐戦士(プロフ) - ココアさん» 倉持くんのプロ野球の話で主人公の性格を変えたのは、おしとやかさより母親を全面に出したいと思ったので(汗)分かりました。御幸の話では性格変えずに書きますね。ご意見ありがとうございます。今後も作品共々よろしくお願いします(*´ω`*) (2017年7月23日 22時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
ココア - もし悩まれたらこの意見を思い出していただければいいなと思います!豆腐戦士さんが連載されるのを心待ちにして待ってます!他の作品も頑張ってください!いつまでも応援していますね! (2017年7月22日 19時) (レス) id: 02b943e900 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年10月22日 15時