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「ただいま帰りました」
「あ、おかえり」
靴を履いている亮介さんと出会し、私は首を傾げる。さっき帰路の途中で帰って来たのが亮介さんなら、亮介さんは帰ってきたばかりのはずだ。けどスーツなのにスニーカーを履き、寒いのにコートも着ていない亮介さんの姿には疑問を感じざるを得ない。
「あの、どちらへ?」
コートも脱がず、荷物も置かず問いかける。
スニーカーの靴紐をキュッと結ぶと、亮介さんは立ち上がり私に手を伸ばす。
「出掛けない?」
どこに行くのか、疑問に感じたが私は差し出された手を握った。そして亮介さんはそのまま家を出ようとしたので、腕を引っ張る。
「コート着ないと風邪引きますよ」
「すぐそこのコンビニだからさ」
いいよ、と言って亮介さんは歩き出す。鍵だけはちゃんと閉めて、冬の夜道を行く。はぁっと息を吐くと白かった。亮介さんを見ると、手を繋いでいない手をジャケットのポケットに入れていた。夜空を見上げながら、歩いている。白い綿のようにふわっと吐かれた息を見て、マフラーを解いた。亮介さんと手を繋いだまま前に立ち、グルグルと片手でマフラーを巻いてやる。
亮介さんが何か言う前に、私は言った。
「肉まん買って、早く帰りましょう」
微笑む亮介さんを見て、私達はまた歩き出した。会話は無かった。何故か話さず、子供みたいに夜空を見上げる亮介さんの手を引き歩き続けた。夜空を見上げるばかり亮介さんが転んだり、電柱にぶつかったりしないように。
いつもならそう誘導するのは亮介さんの仕事だった。理由は特にない。ただ男で家の主人で年上というだけだ。
亮介さんの腕を引くのは、まるで我が子の腕を引いてるようで幸福感があった。いつも引っ張られてばかりの私には新鮮で、かつ頼られているみたいだった。だから幸せで嬉しかった。
不意に亮介さんが立ち止まった。繋いだ手を握り返す。寒くないように包み込むように握った。けど当たり前だけれど、亮介さんの手は私より大きくて私の小さな手じゃ納まらない。
「あのさ、」
「はい」
「俺、記憶ないじゃん」
「ちょっとの間だけ」
「それを言い訳にしたくないんだよ」
「はあ?」
話が見えず、私はただ小首を傾げる。
「俺、新婚なのに浮気してたっぽい」
「…」
何を言っているのだろうか、分からず私は亮介さんの顔を見やる。冗談を言っている様子ではない。ただ私と目を合わさず、また夜空を見上げ進んでいく。
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豆腐戦士(プロフ) - マヒロさん» マヒロさん、コメントありがとうございます!私の駄作品を読んで頂いたそうで、大変嬉しいです(^^)御幸くんの小説については本当にお待たせします。まだ書いている作品があるので。ご理解頂けると幸いです(^^)今後ともよろしくお願い致します! (2017年8月1日 18時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - すごい嬉しかったです!お忙しいとは思いますが頑張ってください。楽しみにしています!(途中で切れてしまいすみません!) (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - 長文、失礼します!ダイヤの小説全部読みました。僕のお気に入りもパシリになる小説で、御幸くんつらいなぁ…と僕まで悲しい気持ちになりました。ここにあったコメ読んだときに御幸くんの高校生の話から見れると書いてあり、御幸くんに幸せになって欲しかったので (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐戦士(プロフ) - ココアさん» 倉持くんのプロ野球の話で主人公の性格を変えたのは、おしとやかさより母親を全面に出したいと思ったので(汗)分かりました。御幸の話では性格変えずに書きますね。ご意見ありがとうございます。今後も作品共々よろしくお願いします(*´ω`*) (2017年7月23日 22時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
ココア - もし悩まれたらこの意見を思い出していただければいいなと思います!豆腐戦士さんが連載されるのを心待ちにして待ってます!他の作品も頑張ってください!いつまでも応援していますね! (2017年7月22日 19時) (レス) id: 02b943e900 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年10月22日 15時