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うだるような熱さの中、私は草野球のグラウンドがある土手に来ていた。草むらに座り、膝を抱える。
グラウンドでは兄が喉が枯れそうな程の大声を出し、チームを指導しながらバットを振る。あの中に亮介さんは居ない。それでも幼い頃からの習慣なのか、気づけば私はここに足を運んでいた。
私の周りで、ひょこひょことバッタやら虫やらが跳ねている。更に膝を抱いて、身体を小さくする。
暫くすると練習は休みになり、息を切らして兄がやって来た。私の隣にどかっと座り、手にしていたペットボトルに口を付ける。
暑いのと、大声を出したせいでからっからに枯れかれた喉を潤す。ゴクゴクと喉を通る水の音がハッキリと聞こえた。
「何かあったか?」
「え…」
「お前は小さい頃から、どうしようもない時に俺が野球してるの見に来るんだよ」
「どうしようもない時?」
「友達の…何て名前だったか忘れたけど、その子が引っ越しする時とか、好きな男に彼女が出来た時とか」
言い返す事も出来ず、私は下唇を噛む。
今の亮介さんの思いは私には向けられていない。過去からやって来たような彼の今の思い人は、春香さんに向けられていた。
人の思いを動かすのは難しい。振り向いてもらえる事があれば、そうでない事だってある。
「どうだ、亮介は。記憶喪失だって聞いたけど、俺の事も忘れてるのか?大変だろうと思って、見舞いに行ってないが義兄として顔見せようかと思ってるんだが」
「分かんない」
「…そうか」
兄の言葉は予想外のものだった。もっと「半月経ったんだから、それくらい分かるだろ。妻だろ」と批難を浴びせられると思ったが、兄は優しくそう呟いただけだった。
「あの家、結婚祝いにお父さんがくれたんだから、何したって良いよね」
「どういう意味だよ」
「売ろうが何しようが、何も言われないよね」
「別れるのか?」
「多分…」
結婚が終わりを告げるのはそれぞれだと思う。性格や価値観の不一致、浮気、気持ちのすれ違い、愛情を感じる事も相手に注ぐ事もなくなってしまう。
そして私達の場合は…。
「亮介を捨てるのか?」
「違う!そんなんじゃない!お兄ちゃんには分からないよ、記憶をなくされた人の気持ちなんて」
「分かる訳ねえだろ。まだ亮介にも会ってねえし」
「無責任!」
「愛に見返りを求めるな!バカ」
「ば、バカ?何でお兄ちゃんにそんな事言われなきゃいけないのよ!」
「亮介の身にもなれ!」
「なるから、別れるの!」
その叫び声が、響き渡る。
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豆腐戦士(プロフ) - マヒロさん» マヒロさん、コメントありがとうございます!私の駄作品を読んで頂いたそうで、大変嬉しいです(^^)御幸くんの小説については本当にお待たせします。まだ書いている作品があるので。ご理解頂けると幸いです(^^)今後ともよろしくお願い致します! (2017年8月1日 18時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - すごい嬉しかったです!お忙しいとは思いますが頑張ってください。楽しみにしています!(途中で切れてしまいすみません!) (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - 長文、失礼します!ダイヤの小説全部読みました。僕のお気に入りもパシリになる小説で、御幸くんつらいなぁ…と僕まで悲しい気持ちになりました。ここにあったコメ読んだときに御幸くんの高校生の話から見れると書いてあり、御幸くんに幸せになって欲しかったので (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐戦士(プロフ) - ココアさん» 倉持くんのプロ野球の話で主人公の性格を変えたのは、おしとやかさより母親を全面に出したいと思ったので(汗)分かりました。御幸の話では性格変えずに書きますね。ご意見ありがとうございます。今後も作品共々よろしくお願いします(*´ω`*) (2017年7月23日 22時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
ココア - もし悩まれたらこの意見を思い出していただければいいなと思います!豆腐戦士さんが連載されるのを心待ちにして待ってます!他の作品も頑張ってください!いつまでも応援していますね! (2017年7月22日 19時) (レス) id: 02b943e900 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年10月22日 15時