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結城さんと伊佐敷さんが帰った後、片付けをしてお風呂に入る。
お風呂から出ると亮介さんが残ったワインを飲んでいた。私はグラスを持って亮介さんの隣に座る。
「私も頂きます」
「どうぞ」
白みを帯びた有色透明の液体が入ったグラスを傾ける。白ワインらしいフルーティーな風味が口に広がる。
「飲みやすいですね」
「葉瑠ってお酒強いほう?」
「あんまり飲めないです」
「じゃあその一杯だけだよ」
「は〜い」
ちょっと飲んだだけで酔ってしまう私に対し、亮介さんはクイッとワイングラスを飲み干しまた注ぐ。手酌をしようとしたので、慌ててワインボトルを奪い亮介さんのワイングラスに注ぐ。
「どうぞ」
「ありがとう」
「いーえ。今日は楽しかったですね」
「偶にはいいね」
そう亮介さんは笑って、ワイングラスを傾ける。
「俺は幸せだったんだね」
そう言ったのはつまり、記憶がなくなる前の亮介さんを差す言葉だと分かった。
私は何も応えずただ亮介さんを見る。
「それなのに葉瑠と一緒にすごした半年間を俺は忘れちゃってるんだね…」
そうワイングラスを傾ける亮介さんの横顔はどこか寂しそうで。そんな亮介さんを見た瞬間、頭の中で違う、違うと叫んだ。
何を言ったら良いのか分からない。
けど私は咄嗟に亮介さんのお腹に抱き着いていた。
「葉瑠?」
「私は亮介さんが大好きです」
「うん。知ってる」
笑いながら亮介さんが言う。
「だから上手く言えないですけど、亮介さんは亮介さんだから記憶があってもなくても亮介さんなんです」
「うん?」
「分かります?私の気持ち、伝わってます?」
亮介さんに抱き着いた恰好のまま、顔を上げた。すると亮介さんは私をずっと見下ろしていたのか、目が合う。そしてクスっと口元に手を添えて笑った。
笑われた事が恥ずかしくて、火が点いたように顔の熱が上昇する。
「なっ、なんですか?」
「可愛いなと思って」
「からかってます?真面目な話してるのに」
「ごめん、ごめん」
ぽんぽんと頭を撫でられる。ぷぅっと頬を膨らませて亮介さんを見ると、両手で頬を包まれてキスされた。
キスで誤魔化されません、と怒ろうとすると唇が触れる距離で亮介さんは話す。
「葉瑠の言いたいこと、ちゃんと伝わってるよ。ありがとう」
胸がキューッと締め付けられた。弱い一面を亮介さんは滅多に見せないから支えよう。そう思ったのに、いつも私は亮介さんに愛を与えられる。
亮介さんの役に立ちたいのに、いつも与えられてばかりだ。
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豆腐戦士(プロフ) - マヒロさん» マヒロさん、コメントありがとうございます!私の駄作品を読んで頂いたそうで、大変嬉しいです(^^)御幸くんの小説については本当にお待たせします。まだ書いている作品があるので。ご理解頂けると幸いです(^^)今後ともよろしくお願い致します! (2017年8月1日 18時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - すごい嬉しかったです!お忙しいとは思いますが頑張ってください。楽しみにしています!(途中で切れてしまいすみません!) (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
マヒロ - 長文、失礼します!ダイヤの小説全部読みました。僕のお気に入りもパシリになる小説で、御幸くんつらいなぁ…と僕まで悲しい気持ちになりました。ここにあったコメ読んだときに御幸くんの高校生の話から見れると書いてあり、御幸くんに幸せになって欲しかったので (2017年7月31日 22時) (レス) id: 97c48ff0e2 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐戦士(プロフ) - ココアさん» 倉持くんのプロ野球の話で主人公の性格を変えたのは、おしとやかさより母親を全面に出したいと思ったので(汗)分かりました。御幸の話では性格変えずに書きますね。ご意見ありがとうございます。今後も作品共々よろしくお願いします(*´ω`*) (2017年7月23日 22時) (レス) id: 74fa4ef45e (このIDを非表示/違反報告)
ココア - もし悩まれたらこの意見を思い出していただければいいなと思います!豆腐戦士さんが連載されるのを心待ちにして待ってます!他の作品も頑張ってください!いつまでも応援していますね! (2017年7月22日 19時) (レス) id: 02b943e900 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年10月22日 15時