【◇】交際期間０日＊３

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亮介さんが入院して半月が経った。外はむしむしと暑く、額やら背中からじわりと汗がしみ出す。

ふーっと息を吐き、バックからハンドタオルを取り出して汗を拭った。襟を掴み、パタパタと服を扇ぐ。途中、綺麗な華を見つけ思わず足が止った。

街の花屋さん。店先に居た女性店員が私に笑いかけ「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。

亮介さんの病室に飾ろうと、華を見繕って貰った。

「夏らしい、向日葵とか夏の華を」

そうお願いすると、店員さんは愛想良く笑って予算内の綺麗な花束を作ってくれた。

今更になって、こんなに大袈裟に包んで貰う必要がない事に気づく。でもやはり、華とはあるだけで嬉しいが、花束と姿を化すと更に嬉しくなる物なのだと自覚した。

歩いて病院に向かう。

検査の結果、亮介さんの記憶障がいは一時的なものだと分かった。脳のＣＴも事故以降の経過を見ても、約二年の月日を忘れた事以外に変わりは無い。

ただ記憶が無くなるという事は、私達の関係も大きく変えるものになった。

ドアをノックする。返事を待ち、中に入ると亮介さんが身体を起こしているのが目に入る。

「良いんですよ、寝ていて」

亮介さんの足下に花束を広げる。既に挿してある花と、買ってきた花を入れ替える。

「ずっと寝てるのも、何だか飽きて…」

そうグローブに手を伸ばし、ボールを弄りだす。

そこで途切れる会話。

いつもと同じように接しようとすると余計に変に意識してしまう。言葉を選んでしまうし、そのせいで何と言えば良いのか分からなくなるのだ。

亮介さんも亮介さんで、戸惑っているのが伝わって来る。無理もない。亮介さんからすれば、私とは初対面も同然なのだ。

「水、変えてきますね」

そう言って病室を出る。

重苦しい雰囲気に耐えられなくなったからだ。

離れた距離。今まで私達がどう接していたのか、距離を縮めていたのか。それを考えて亮介さんの言動が大きかった。

亮介さんが積極的に私に色々してくれて、そっと導いてくれて。

だからこそ、亮介さんとの出会った時間関係なく愛を深めることが出来たのだ。

洗面台の前に立ち、鏡で自分の顔を写した。思った以上に酷い顔をしていたので、気合いを入れるようにパンパンと頬を叩く。

「私がしっかりしないでどうするのよ」

鏡に写る自分に言い、花瓶を持ち病室に戻った。


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