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鳴
買い物を終え帰宅すると、三浦さんは早速夕飯の準備にとりかかる。何か手伝うと申し出たけど陶器で出来たような無表情で綺麗な顔を俺に向け「ダメ、休んでて」と言われた。
とりあえずテーブルのセッティングをして、テレビを点ける。丁度野球中継が放送されていたので、それを見る事にした。
テレビからの歓声に混じって聞こえる包丁の音、くつくつと煮立つ音にふんわりと漂う昆布とカツオの合わせ出汁の匂い。
何だか実家に帰ったような安心感があって、ああ家庭料理ってこんなにいいものなのかと今更になって実感する。
(新婚さんみたいじゃん)
「成宮君は蕎麦、一束じゃ足りない?」
すっと急に三浦さんの姿が現れる。日本人形のような美しさが気配もなく現れると、幽霊のようで心臓をバクバクさせながらも平然を装い「二束で」と指でピースする。
暫くすると料理が運ばれてきた。鶏南蛮蕎麦。冷たい蕎麦と出汁をとって作られた蕎麦つゆにはカリッと焼かれた鶏とネギが浮かんでいる。
「お口に合うといいんだけど…」
そう謙遜する三浦さんを横目に、俺は箸を手にすると蕎麦つゆに蕎麦を付け音を発て啜った。
「あ、美味い!」
啜ると際立つ鰹節の風味と鶏の脂の旨味。焦げるくらい焼かれたネギは香ばしく、皮をパリパリに焼いた鶏は粗食すると小気味良い音を発てジューシーに仕上がっている。
「ヤバ、これすげぇ美味い」
「良かった」
ほっと息を吐き、蕎麦を啜る三浦さん。上品というより、豪快は食べ方でツルツルっと蕎麦を啜る。そういう、男の前だからと言って、蕎麦を啜れないみたいな女アピールをしない三浦さんがまた良いな、と思った。
「これは二束ペロリといけちゃうね」
「自画自賛じゃん」
「でも美味しい」
「うん、美味しい」
ふと俺は箸をとめた。外食こそあれど、家でこうやって誰かを招いて食事をするなんてことあっただろうか。いつも帰宅すると事務的に食事を済ませ、さっさと風呂に入って寝る感じだった。でもこうやって誰かとテーブルを囲むのは久しぶりだし、楽しかった。
「バニラアイス、お風呂に上がった頃に食べられると思う」
「マジ?超楽しみ」
蕎麦をペロリと平らげ、幸福感に満ちる俺。だが好きな人との共同生活がどれだけ危険か、俺はこの後身をもって知ることになる。
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年11月19日 17時