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鳴
「三浦さん、学部は?」
「社会科学部」
「高校は?」
「成宮君のお姉さんと一緒」
「あ、そうだった。部活とかしてた?」
三浦さんを質問攻めにしながら、近くのスーパーまでの道のりを歩く。空は雲がひとつもない、どこまでも晴れ渡るような青空で夏のような暑さがあった。
「帰宅部。うち共働きで、だから帰って料理やら家事やらするのが役目で」
「へー、偉いね」
「そんな事ないよ。成宮君は?毎日忙しいってお姉さんから聞いたけど、バイト掛け持ちしてるとか?」
「ううん、野球部なんだ。知らない?関東ナンバーワンサウスポーって言われて、結構甲子園とかでも人気だったんだけど」
「ごめん、スポーツとかあんまり興味なくて」
「そっか、残念」
そうこうしているうちにスーパーに着いた。中は冷房が効いているのかひんやりと少し冷たい。籠を持つと、三浦さんはカートを引いてやって来た。
「いっぱい買うから」
「う、うん」
三浦さんは日本人形みたいな顔で、入り口に置いてあるチラシを眺めるとスーパーを回り出す。カートを置くのは俺の役目。
ジッと野菜を吟味する三浦さんを盗み見ながら、俺達は奥へ奥へ進んでいく。
三浦さんは卵を手に取ると、値段を確認し一番安い物に手を伸ばした。ひっくり返して卵が割れていないか確認するとそっと籠に置く。
「成宮君の好きなバニラアイスを作ろうと思うのだけど、良いかしら?」
「え?作れんの!?」
「ちょっと手間がかかるけど作れる。あと今日の夕飯は引っ越し蕎麦でいい?」
「何でも良い!」
「鶏南蛮蕎麦にしようかと思うの」
「めっちゃ美味そう!」
そう言うと、三浦さんがクスリと笑った。そっと口元に手をやり、笑うひとつひとつの仕草も何だか繊細で。目を細め笑うだけで、胸がキュッと締めつけられた。
「ごめんなさい、凄い食いついてくれるから嬉しくて」
「いや、だってちゃんとしたご飯とか久しぶりだし」
「あ、それなら白いご飯の方が良い?」
「ううん。引っ越し蕎麦で。暑いし」
「オッケー」
抑揚のない声でそう言って、親指と人差し指で丸を作る。
徐に鶏肉に手を伸ばしながら、三浦さんは言った。
「良かった、成宮君がご飯の作り甲斐がある人で」
やる気がなさそうで、やる気満々なんだな。
作り甲斐があると言われると、何だか嬉しくて頬が緩んだ。
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年11月19日 17時