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三浦
鳴が冷たかった。お弁当持って行ったんだからもっと喜んだりありがとうって言ってくれるって期待した。けど想像は現実と違う。むしろ鳴の機嫌が悪くて、ツンツンした態度だった。
何か悪いことしたかな?昨日?夜?今朝?
感情が人より希薄な私には分からない。つまらない教授の話に耳を傾けながら見えるはずもない野球部のグラウンドの方向を見る。
「A、さっきから溜息ばっかり。どうしたの?」
「人の気持ちって分かんない」
「なんかよく知らんが、A、あんた暗闇には気をつけて」
「え?」
意味が分からず悠来をわ見ると、目で後ろを見るよう促される。見れば鳴の親衛隊らしき人が私を見てヒソヒソと話していた。
その中の一人と目が合う。きっと私を睨みつけると、あからさまにふいっと顔を背かれる。
別にあの人達にどう思われても良かった。嫌われようが何されようが、私は好いてくれと思ったこともないから気にもしない。
私といると決めたのは鳴だ。私も鳴といたいと思った。例え人気者だって、私はただ純粋に鳴が好きだ。でも…
はぁ…
思わず溜息が出る。
「またじゃん。彼氏と喧嘩でもしたのかな?」
何故か楽しそうな悠来をチラリと見て、私は首を傾げる。
「楽しそう」
「恋愛にトラブルはつきもの。あ、でもまさかマリッジブルー?」
「そんなんじゃない」
幸福度は上昇中。鳴と寝た昨日からずっと、心臓を何かで優しくくるんでるみたいに心が満たされている。
でも鳴は野球に集中したいのかな?
そう思うとあの突っ慳貪な態度にも説明がいくらような気がした。
「やっぱり部屋借りよう」
「え?彼氏んとこは?」
「鳴だって一人になりたいよ」
「いやいや、でも同居オーケーしてくれんじゃん。それに家具は?前のとこは家具付きだったでしょ。それにそれにA貧乏学生じゃん」
「バイト増やす」
「あんたそれじゃあ成宮先輩の厚意が」
「それでも、鳴には嫌われたくない」
世界中から嫌われようと、私は鳴にだけは嫌われたくない。逆に鳴が世界中から嫌われようと、私は貴方を愛していられる。
世間一般にはそれを重いというのかもしれないけれど、私はそれくらい鳴が好きなんだ。
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年11月19日 17時