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A
鳴を初めて見たのは、確か大学に行ったばかりの頃だった。
大学の敷地内ではサークルの勧誘で騒がしかった。何か学祭かって思うくらい、あちこちでパフォーマンスが披露されていて、みんなのテンションも高かった。
そんな中を歩く私は周りにどう思われたのだろうか。前を通るだけでどこかシンと静まった気がした。「人形が歩いている」とでも勘違いされたのだろうか。
いつもそうやって周り、特に女子からいじめられていたから特に感情が揺さぶられるなんてことはなかった。
それにサークルの勧誘が一週間続いて、私を見る視線にも慣れたのだと思う。
「あ、鳴君」
ふと数メートル前を歩いていた金髪の男性が足を止めた。人工塗料で染めた金金した感じの髪の色ではなく、外国人のブロンドを思わせる綺麗な髪の色だった。
ハーフかなと思い見ていた。鳴という名前はてっきり「may」とか英語の類の名前かと勘違いしたが、日本人らいし顔立ちを見て内心驚いた。でも決して格好悪い訳では無い。中性的で整った顔にビックリした程だ。
鳴という名前しか知らない。でもどこか見た事ある気がして、気になって気になってたまらなかった。
鳴君と再会したのはそれから3ヶ月近く経ってから。同居人を紹介してあげると先輩に言われ向かうとあの鳴君が居た。
顔には出ていなかっただろうけど、心底驚いた。嘘?って感じだった。鳴君も同様で驚いた風に目を見開かせていた。
(同居人が女だってビックリだよね)
私も男でビックリ。それより鳴君が居たのにビックリ。
でも嫌じゃなかった。女の子なら着替えとか襲われる心配とか色々あるかもしれないけれど、鳴君の中性的な顔立ちのおかげか気になんてならなかった。
なんで一緒に住むって決めたんだろう。私自身の意思で決めたはずなのに、自分のことが分からなかった。
「あれ?A」
呼ばれて顔をあげると鳴が居た。
大学のグラウンドの前。ユニフォーム姿で右手にグローブをはめている。グラウンド脇の観客席には鳴ファンがいた。
「鳴」
こっちこっちと手をこまねく。そして近付いてきた鳴に抱き着くと、赤く熟れた果実のような柔らかな唇を啄んだ。チュッと離しまた果実にかぶりつこうと顔を近付けると鳴から顔を近付け唇を触れさせる。
腔内を犯す舌。思わず漏れる鼻にかかった声。すると更にキスが激しさを増す。
幸せ。
胸に満ちる幸福感。これは鳴に対する愛か。それとも周りの憧れる者を手に入れた優越感か。
やっぱり分からない。
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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年11月19日 17時