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A



成宮君は部屋と洗面所を行ったり来たりしながら、身支度をした。大学野球部のジャージを見るのはその時が初めてで、思わず「あっ」と声をあげてしまう。すると成宮君は私の前をくるくる周りながら「何かついてる?変?」と問いかけてきた。

「あ、そうじゃなくて。意外にそのジャージ格好いいと思って」

二限目から授業の私は、成宮君の邪魔にならないよう部屋の隅で膝を抱え身支度の様子を眺める。

成宮君は嬉しそうにニッと笑って胸を張り、自信満々そうに「でしょ?」と言った。

野球部は忙しいらしく、授業の合間を縫って練習をするらしい。三限目から授業があるときは、一限目、二限目の空き時間に練習をすると言った感じだ。

「じゃあ、行って来ます!」

「行ってらっしゃい」

手を振り、成宮君を見送る。彼が居ない間に掃除やら洗濯を済ませ、家を出た。

(そう言えば、今日の夕飯どうしようかな…)

ご馳走と言えば、焼き肉やお寿司なんかが浮かぶけど。自分の為に料理すると考えると、何だかやる気をなくしてしまうのが私という人で。

(でも折角、成宮君が誕生日しようって言ってくれたし。ちょっと豪華な物が良いよね)

ふと顔を上げると、大学の敷地にある野球グラウンドに来ていた。バッターボックスの後ろとマウンドの周りに緑のネットが立てられている。何の練習か分からないけど、マウンドには成宮君が立っていた。

(そう言えば、成宮君ってピッチャーなんだ?)

野球の知識に乏しい私はマウンドの成宮君を見た。と、彼がボールを投げた瞬間「きゃー」と歓声が沸き上がる。見れば先に女の子達の群れがあり、「鳴く〜ん」と名前を呼んだりしている。

誰目当てか、一瞬分からなかったが先輩が成宮君を鳴と呼んでいたのを思いだし、マウンド上の成宮君を見やる。

(凄い人なのかな?)

それとも顔が良いからモテるだけ?

でも成宮君の目は真剣で、外野の騒ぐ声は一切彼の耳に届いていない。

私から見えるのは成宮君の広い背中と、キリリとした横顔だけ。

右足をスッとあげ、バッターに向けて投げた。成宮君の左手から放たれたボールは真っ直ぐな白い戦を描き、バッターを横切りキャッチャーミットに修まる。

「成宮!そんな本気球、打てるか!」

「誰も打たせようと思って投げないし!」

「練習にならんだろうが!」

怒鳴る監督らしき人を見て、成宮君ファンと思われる女子が言う。

「ワガママな感じが都のプリンスって感じだよね」

聞き慣れない渾名に、私は首を傾けた。


.

3-3→←chapter03.成宮鳴



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作者名:豆腐戦士 | 作者ホームページ:   
作成日時:2016年11月19日 17時

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