32 導く声 ページ32
少しの着替えと必要なものだけを持ってタクシーに乗り、言われた住所を運転手さんに伝え目を閉じた。
善は急げとばかりに「じゃあ今日からな」と自分の住所を渡し「先に帰って部屋を片付けておくから」と出て行った大野さん。
展開の速さに思考がついていかず、一人になった部屋で考え込む。
今の私達の関係はとても複雑で曖昧。
会えなくなるのが悲しいと思うほどには好意を持ってるけど、それが、彼が伝えてくれた気持ちと同じものなのかは自分ですら分からない。
そんな状態で本当に大野の家に行ってもいいのか。
・・・この部屋を出て大野さんの前にあらためて立った時に何かが変わるのか・・・。
答えの出ない事ばかりつらつら考えて動けないでいると、携帯電話がブルブルと震え大野さんからメッセージが入る。
そこには『ちゃんと来いよ！ 今から30分以内！』という言葉。
プンプン怒ってる男の子のスタンプが可愛い。
まるで私がボーっと考え込んでいたのを見透かしたようなタイミングに、テレビで見る彼との差を感じた。
何も考えてないように見せてるのは振りで、実はちゃんと周りを見て状況判断とかしてるのかな。
『出来るだけ急ぎます』とメッセージを返し、本当に最低限必要なものだけをバッグに詰めて家を出た。
タクシーで10分ちょっと。深夜なのに３千円でお釣りが返ってきた。
『こんなに近いところに住んでたんだ・・』と思うと同時に、目の前に立つ建物を見上げて『やっぱり世界が違う人なんだな』と寂しくなった。
インターフォンを押すのを躊躇しているとまた電話が鳴る。
タイミング的に、と画面を見ればそれはやっぱり大野さんからで。
『ねえ、まだ？』
通話にした途端、不機嫌そうな声が聞こえてきた。
『待ってるんですけどー』
『30分以内つったじゃん』
最後に『もー』と続いた可愛い口調に思わず笑うと『笑ってんなよ』と今度は拗ねた子供のように返って来る。
「たった今タクシーを降りて、マンション前にいますよ」
嘘。
コンシェルジュさんの視線が気になるくらいの時間はここに突っ立ってた。
電話を掛けてきてくれなかったら、もしかしたらこのまま帰っていたかもしれないくらい、自分と彼の立場の差を感じてしまっていた。
『逃げないでちゃんと来たね』
「・・・逃げませんよ」
本当はとても怖いけれど。
それでも、勇気を出して彼の世界の中に足を踏み入れる。
『待ってるから、おいでね』
その声に導かれて。
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seiran(プロフ) - nemuさん» nemu様。こんなにご無沙汰にしていたのにまた読んで頂けてとても嬉しいです(T^T)ありがとうございます!! (2021年4月1日 1時) (
レス) id: ca27f5ec67 (このIDを非表示/違反報告)
nemu(プロフ) - seiranさん、ご無沙汰しています。お話更新して頂けて本当に嬉しいです。ありがとうございます！ (2021年3月30日 22時) (レス) id: c40904f8f1 (このIDを非表示/違反報告)
seiran(プロフ) - Fu--chanさん» 年単位のご無沙汰での更新でした。こちらこそ、読んでいただきありがとうございます！ (2021年3月29日 0時) (レス) id: c5223b7e79 (このIDを非表示/違反報告)
Fu--chan(プロフ) - 更新ありがとうございます。 (2021年3月28日 23時) (レス) id: ad6226cb15 (このIDを非表示/違反報告)
seiran(プロフ) - nemuさん» こっそりでもいいので(笑)お付き合い頂けたら嬉しいです（＾＾） (2019年3月23日 18時) (レス) id: ace4cd6236 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：青藍(せいらん)
作成日時：2017年4月13日 9時
