31 優しいキス ページ31
大野さんの手が私の頬を撫で、涙を拭っていく。
「忘れちゃえ、あんな奴のことなんて」
引き寄せられて、腕の中に包まれて。
知らない筈のあの人の事をあんな奴と言う。
本当に、あんな奴、だけど。
「手始めに、今すぐにでもここ出て俺んち行こ。
大事なもんとすぐに必要なものだけ持って。
ここ、俺もちょっとは思い出あるけど、そんなのこれからまた一緒にいれば作れるし」
「・・・」
この部屋での思い出を惜しむ私を知ってかそんなことを言う彼に、嬉しさと少しの哀しみが沸く。
新しい思い出を一緒に作るなんて、そんな簡単に言うけれど・・・。
私と大野さんの仕事上の距離はとても近くてとても遠い。
少しのきっかけで二度と会えなくなる。
そうならない為にリスクは最小限にしたいのに。
「だから、俺んとこ落ちといで」
彼は少し笑いながら、涙の残る目尻にキスを落としてそんな事を言う。
「Aちゃん」
「・・・はい」
「ふふ。A？」
「・・・・はい」
クスクス笑いながら私を抱き寄せる彼に考えなんてまとめられるわけがなくて、されるがまま呼ばれる名前に返事をすると、突然抱き締める手に力がこもり浮いた鎖骨に頭を押し付けられた。
潰されてる耳の上のところが少し痛い。
「大野さ・・・」
身じろぐと腕は少しだけ緩むけれど解かれる事は無く、私は大野さんの胸が思ったよりも広いことを知った。
私より体温が高くて、その居心地が決して悪いものではない事も。
あの人とはまるで、全てと言っていいほど違うのに。
思い出すほど、惨めな自分。
なのに。
違う。だからなのか。
大野さんの優しさと少しの強引さが心地よくて。
「A」
この声に頷いてしまいそうになる。
弱った心にこの声は優しすぎて。
「なんも考えないでうんって言え」
「・・・そんなの」
「無理っていったら泣く」
「ええ・・・」
「Aの涙全部もらって、この部屋びっちゃびっちゃにしちゃるわ。
そしたらもう住めないだろ」
その言葉はまるで拗ねた子供みたいで、さっきの強引さとのギャップに思わず笑いが零れた。
「ほら、俺といたらいっぱい笑わせちゃるよ？」
だから俺んとこおいで、と微笑みながらもう一度差し出された手。
「・・・部屋を水浸しにされたら売れないから、やめてください」
初めて見た時から綺麗だなと思っていたその手に、私はそんな事を言いながら自分の手を重ねた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1124人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
seiran(プロフ) - nemuさん» nemu様。こんなにご無沙汰にしていたのにまた読んで頂けてとても嬉しいです(T^T)ありがとうございます!! (2021年4月1日 1時) (
レス) id: ca27f5ec67 (このIDを非表示/違反報告)
nemu(プロフ) - seiranさん、ご無沙汰しています。お話更新して頂けて本当に嬉しいです。ありがとうございます！ (2021年3月30日 22時) (レス) id: c40904f8f1 (このIDを非表示/違反報告)
seiran(プロフ) - Fu--chanさん» 年単位のご無沙汰での更新でした。こちらこそ、読んでいただきありがとうございます！ (2021年3月29日 0時) (レス) id: c5223b7e79 (このIDを非表示/違反報告)
Fu--chan(プロフ) - 更新ありがとうございます。 (2021年3月28日 23時) (レス) id: ad6226cb15 (このIDを非表示/違反報告)
seiran(プロフ) - nemuさん» こっそりでもいいので(笑)お付き合い頂けたら嬉しいです（＾＾） (2019年3月23日 18時) (レス) id: ace4cd6236 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：青藍(せいらん)
作成日時：2017年4月13日 9時
