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『……おかえり』
『ただいまです』
特に寂しがっていたような素振りはなく、淡々と澄ましては車に乗り込んだ。
単なる行事の一環に捉えていたのかと思えば、俺が「楽しかったか?」と聞くとすぐに頷いたから、まァ良い思い出にはなったのだろう。
夜、いつも通り歯を磨いたことを確認した後ベッドに入るのを見届けるも、Aは俺の服の裾を摘む。
こんなことは初めてであり、「どうした」と振り返ると申し訳なさそうにその手を放した。
しかし口をもごつかせて言いにくそうに俯く。早く言わないと俺が呆れてしまうとでも思っているようだが、そんな事はないと彼女のベッドの上に腰を落とした。
『あの、』
静かな部屋には似つかわしくない切羽詰まった声。Aはベッドスタンドに置いてある本を手に取って、それをキュッと握り締める。
『この本、もう、読んじゃいましたか?』
素直に「読んで」と言えないAに身体の内側の内側にあるどこかが握りしめられるような痛みを味わう。
『……それはまだ読んでねェやつだな』
俺は掛けたばかりの布団をめくって中に入り、彼女の横に潜り込んだ。そしてAの身体に腕を回して本を広げる。
夜の静けさに紛れ込むくらい小さな声で語る物語。Aはそれに耳を傾けていた。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - 昔の自分と比べてしまいました。あなたの作品がとても好きです。この作品に出会えたこと、心から感謝しています。涙を拭きながら、読み進めようと思います。 (2019年1月27日 16時) (レス) id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - こんにちは、コメント読んでいただけているかどうか…でも、もしよんでくださるなら。わたしは、ハルさんの作品に心底惚れています。自分の書きたいものをえがくことって素晴らしいと思うんですよね!だから、周りの意見に惑わされず「ハルさんの作品」を待ってます (2018年5月2日 0時) (レス) id: a53110be97 (このIDを非表示/違反報告)
kaya(プロフ) - 今更...な感じがしますけど、コメント失礼します。私、この作品読みながらずっと泣いちゃってました。素晴らしい作品だと思います。何回読んでも飽きないですね!感動しました。 (2018年4月2日 22時) (レス) id: 504932b45f (このIDを非表示/違反報告)
ハル@六月に一時帰還予定(プロフ) - みなさんコメントありがとうございます〜( ; ; ) お一人お一人にご返信をしたいのですが、下の方のコメントが消えてしまいそうなので割愛させていただきます( ; ; )無念……。沢山の励ましのコメントを胸にこれからも頑張って行きますので、応援お願いします!! (2018年2月1日 17時) (レス) id: 9ebc1e1d82 (このIDを非表示/違反報告)
クローバー - 心に響きました。恋愛要素など無くとも、人を感動させられる小説は素晴らしいと思います。これからも頑張ってください。応援しています! (2018年1月12日 20時) (レス) id: acfcc66616 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory
作成日時:2017年10月6日 18時