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「仗助ってばまた駅の噴水で座り込んでてさァ」
「やだ、誰かと待ち合わせ?」
「それが、おっかなびっくり亀に触ろうとしてたの!もーそういうとこも憎めないよねェ!」
「え〜っ、アタシも会いたかった〜」


すれ違い様に会話が聞こえたとき、知っている人の名前があったら無意識に声を拾ってしまうものだと思う。

そういえば実習室でお昼を食べた帰りに、彼は廊下の端に置いてある剥製のケースからやたら距離を取って歩いていたような気がする。あの中には人間の子供くらいのサイズがあるワニも収まっていたはずだ。

もしかして苦手なのだろうか。皮膚のゴツゴツしている、爬虫類系の動物が。
そうすると、何故自分から近付きに行くのかは疑問であるけれど。


(仗助くんもそういうところあるんだなぁ)


不良で大人びていて親切で、とAの思う彼の特徴を挙げたとき、そこに弱みらしい弱みが並ぶことはなかったから新鮮だ。


胸の中で自然と呼んだ名前に、微かなむず痒さがこみ上げる。
さっきすれ違った彼女らと、同じ立場にいるんだなと妙な感慨深さがあった。

今までは意識的に遠巻きにしようとしていたから、こちらも新鮮である。


次の授業が始まる前に自分の席に着こうと思ったら、教室の窓から外を眺める友人の姿が目に入った。

窓を開け、爽やかな風に長い髪を遊ばせる後ろ姿は間違え様がないし、そこだけ切り取られたみたいに空気が違う。

なんとなく、話を聞いてほしそうな気配を感じとってしまって、そのまま着席するのは申し訳なくなった。


「…由花子さん?」
「いいわよね。あなた、最近楽しそうじゃない」
「そうかな…?あんまり変わったことはないはずだけど。仗助くん達とお昼食べたりするだけで」
「呆れるわ。やめておきなさいって教えてあげたのに、Aったらのこのこ近付いていっているんだから。でも仕方ないわよね。あいつは康一くんに近付きすぎなんですもの。彼がいれば、そこにどんな奴が混じっていようと素敵な時間に違いないわ」


前に「由花子さんも一緒にどう?」と聞いたら、「康一くんに嫌われろっていうの!?」と悲痛なトーンで返されたので、その手の反応は悪手だと学んでいる。

加えて機嫌の良し悪しを察せられるくらいには親しい仲であるが故に、聞いてほしいだけで助言は求めていないこともまた、なんとなく感じていた。

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こうもり - あげなすびさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2022年9月14日 7時) (レス) id: 9309100d6a (このIDを非表示/違反報告)
あげなすび(プロフ) - 面白いですっ...!!これからも応援します! (2022年9月14日 0時) (レス) @page3 id: a4623d5dd3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こうもり | 作成日時:2022年9月3日 22時

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