【ジョジョ4部】蠱惑的インクルージョン (ページ8)

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焦点の定まらない視界の中で、Aが真っ先に捉えたのは見知らぬ天井だった。

「承太郎さん！目ェ覚めたみたいっス」

遠くで誰かの声がする。
聞いたことはあるが、安心できるほど親しい者の声ではない。

背中に感じる感触がソファのクッションだと気づいたAは、のろのろと体を起こそうとした。
どこかの家の一室らしかったが、なぜこんな場所にいるのか全く心当たりがない。

今日は学校から真っ直ぐ家に帰ろうとして、同じクラスの男子に声をかけられて。
そこからの記憶が曖昧だ。

「あーっと、体痛くねっスか？一応治しちゃあいるんスけど、あんま一気に起きねェ方が…」
「…ひがしかた、くん」
「そっスよ」

覗き込むように顔を出したのは、1年生の中で一番の有名人だった。

少しだけ困ったように微笑む彼を、Aは知っている。噂だけではなく、実際に。

ぼやけていた視界がようやく鮮明さを取り戻すと同時に、Aの頭に気を失う前の出来事が蘇った。

声を低めた彼から放たれた殺気。
一気に鋭さを帯びた目に射抜かれた瞬間、体を走った冷たい震え。

「ひ…ッ、」

そのとき、体の中心から指先までびりびりと痺れる間隔がした。

誰かの気配を感じて振り返ると、針のような棘を持った怪物が、Aを見下ろしていた。

悲鳴になり損ねた息が喉の奥から溢れた瞬間、それが鋭い爪を振りかざした。

「…ッ、またかよ！クレイジー・ダイヤモンド！」

固まるAより早く反応した彼が、何かの名前を呼んだ。

その『何か』とは、別の怪物だった。

逞しい手足を持ったそれは、姿を見せるや否や針の怪物の両腕を己の両腕で封じ込める。どういう原理か、Aの腕まで掴まれたみたいに動かない。

「何、何なの、これ…！」
「！？あんた、スタンドが見えて、」
「おい、何の騒ぎだ」
「承太郎さん！これっス、本体を襲うスタンド！」

部屋の奥から、白い帽子の男が近付いて来る。
リーゼントの彼を凌ぐ長身だ。
帽子の影からちらりと覗いた目がAの頭上を見て、そしてAを見下ろした。

彼にとって、そこにいて当たり前なのは怪物の方で、異端なのはAの方だというように。

「……やだ、嫌、来ないで！！」

誰にも近付いてほしくなかった。
怪物にも、それを操る同級生にも、佇んでいるだけでこの空間を支配しているような見知らぬ男にも。