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錦戸先輩の彼女はいなくなっていて、今は先輩がひとり、僕が倒した自転車を起き上がらせてくれる。
こういう優しさが、今までは嬉しかったのに。
なんで僕は、錦戸先輩の顔が見られないんや。
「あ、ありがとうございます…」
「おん、ええよ。なんか元気ないな?」
「先輩」
もう、わけわからん。
なんでこんなに心乱されるのか…わけわからん。
「取材、今日で終わりです」
無理やり作った笑顔を見せたら、錦戸先輩は目を見開いた。
「今までありがとうございました。急に現れた僕に優しくしてくれて」
「安田…?」
「さよなら、先輩」
こんなこと言いたくないのに。
さよならなんて、しなくていいのに。これからも仲良くしたいですって言いたいのに。
つらい。今はつらい、錦戸先輩を見るのが。
何かから逃げるように背を向けた僕は、校舎に向かって早足で歩き出した。
「…安田っ、待って、」
そう言って掴まれた手。
嬉しいと苦しいが混ざり合った感情にぐちゃぐちゃになる心。
離して。離してほしくないけど、離してよ。
「俺は…さよなら、嫌や」
その声は聞いたことのない弱々しさで、僕は思わず彼を振り返った。
先輩は眉を下げ、子犬みたいな顔をして僕に一歩近づいた。
「安田は俺のこと取材したけど、俺はまだ安田のこと、いっぱい知りたいよ。なんでさよならなん?俺とおるの、しんどい?」
「しんどいわけない…ですけど…」
うそ。今の錦戸先輩とは、近づくのもしんどい。
「先輩、彼女さん、いたんですね…?スクープやけど、でも記事にはしないです。
きっと泣いちゃう女の子たくさん、いるし…」
あの写真を編集するなんて、僕にはきっとできないから。
すると錦戸さんは、ぐっと僕に顔を近づけた。
「泣いてるのはおまえやんけ」
そう言われるまで僕は、自分の頰が濡れているのを知らなかった。
目尻にちゅ、と暖かいものが触れた。
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るーしー(プロフ) - ガムトポすごく萌えました😭最後の鈍感トッポが、可愛くて可愛くて可愛すぎます。。ピンチに駆けつけるガムもかっこよくて、最高でした😭素敵な小説をありがとうございます! (2023年3月23日 2時) (レス) @page10 id: f4098d03e8 (このIDを非表示/違反報告)
もち苺。(プロフ) - あかかめさん» ありがとうございます!私もヒロイン感あるしょうちゃんが好きです笑 この先もゆっくりではありますが頑張るのでよろしくお願いします!! (2017年9月5日 20時) (レス) id: e64daadfce (このIDを非表示/違反報告)
あかかめ - 今更ですが全シリーズ読ませて頂ました…!章ちゃん受け+受けが危ない感じになって助ける的なお話が大好きなので生き甲斐になってますwお忙しいでしょうが無理せず頑張って下さい!長文、乱文失礼しました。 (2017年8月8日 20時) (レス) id: dd37e16602 (このIDを非表示/違反報告)
もち苺。(プロフ) - とまころろさん» いつもありがとうございます!これからもなかなか書けない期間があると思いますが、たまーにでも覗きにきていただけたらと思います。これからもよろしくお願いします! (2017年7月13日 23時) (レス) id: 9309636f94 (このIDを非表示/違反報告)
もち苺。(プロフ) - 青菜はやとさん» いつもありがとうございます。切甘は難しいです!笑 でも可愛いヤスくんは全作品に欠かさず書いていきたいです笑 (2017年7月13日 23時) (レス) id: 9309636f94 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もち苺。 | 作成日時:2017年3月23日 22時