やすくんと年下組 part11

奏でる音が春を呼ぶ ページ19

安田side


僕は1人で、ギターを鳴らす。

僕は1人で、歌を歌う。


駅前は治安が悪く、怪しげな勧誘や怖いお兄さんもちらほら見受けられれる。


僕は高校を卒業して以降、ストリートミュージシャンをやっていた。たった1人で、ギターとマイクだけ用意して。


これだけじゃ収入はキツくて、アルバイトもしてるけど。まだ20歳、夢を諦めたくなくて、曜日と場所を決めて歌い続けた。


最近は、通行人が集まることもある。ギターケースに入れてもらえるお金も、ちょっとずつ増えてきた。でもまだまだ、素人くささは抜けへんかな。


歌い終わり、拍手をもらい、お金ももらって、人が去る。そのとき、こちらに向かってくる人を見つけた。



「章ちゃん」



今日もスーツをビシッと着こなした彼は、道行く女性がみんな二度見するようなイケメン。名前は、錦戸さん。




知り合ったのは半年ほど前。今より未熟やった僕の音を、足を止めて最後まで聞いてくれた。


かっこええ人やな。同い年くらいかな。その日は他に人がいなくて、ただ1人のために歌ってることがとても特別に思えた。


そして、僕の曲をすべて聞いた彼は…


涙を流した。


今まで、聞いてくれた人はいたけど、そんなことは初めてで。お金を置いて、涙をゴシゴシしながら去っていく彼に、ありがとうとしか言えなかった。



それからというもの、僕が歌う月曜日と水曜日の夜には必ず聞きに来てくれた。

3回目に会ったとき、僕から話かけて自己紹介をし、5回目に会ったときには「章ちゃん」と呼び始めてくれた。僕は恥ずかしくて、未だに錦戸さん呼びなんやけど。


そして6回目に会ったとき、僕は彼への恋心に気付かされた。そして、これで会うのは何回目やろか。

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