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9月
新居に梓と2人で引っ越し、同棲を始めた3月から約半年経った9月。
7月、8月の余韻を残した暑い外。
そんな外から逃げるように、俺と梓は喫茶店に入った。
今日は、リスナーのみんなに婚約報告をすると決めた日。
家にいるとそわそわして、落ち着いていられないらしい俺を梓が連れ出してくれた。
おかげで朝ほど緊張はしていない。
「1週間後大事な報告をします」と1週間前にツイートして、昨日の夜にもう一度告知。
今のうちにもう一度告知しようかと悩んでいたら、梓が席を立った。
『ごめん彼方。アイスティー頼んでおいてもらってもいい?ちょっと、お手洗い行ってくる』
「うん、わかった」
梓の背中を見送って、近くを通りかかった店員さんにアイスティーとアイスコーヒーを頼む。
恭しく礼をして、店員さんは厨房の方へ戻っていった。
Twitterを開いて、ツイート画面へ。
そらる≪@soraruru:今日の20時にOPENRECで重大発表の放送をします。≫13:24
そうツイートすると、テーブルに置かれた梓のスマホが震えて、明るくなった。
画面には[そらるさんがツイートしました]という文字。
…通知、入れてるんだ。
届いたアイスコーヒーを一口飲むと、後ろのテーブル席に高校生ぐらいの女の子2人が案内された。
盗み聞きするつもりはなかったのだが、2人のどちらかが発した言葉が俺を震わせた。
「ちょ、そらるさんの重大発表今日じゃん!」
「やばっ」
自分の歌い手としての活動名が聞こえた。
今日の生放送について、女子2人は話し始める。
「重大発表って何だろ〜」
「えー、結婚とかだったらどうする?」
心臓が跳ね上がった。
「私は全然いいよー!そらるさんが選んだ人なら絶対いい人だろうさ。」
少し高めの声がそう言って笑った。
対して、落ち着いた声はそれを否定した。
「私は嫌だな。…みんなのそらるさんが、誰かのものになっちゃうってことでしょ?そらるさんのこれからの活動に影響あったら嫌じゃん。」
しかも、歌い手界隈って推しの彼女、恋人とかに厳しいじゃん?
その言葉が、胸をぎゅっと締め付けた。
『ただいま〜って、彼方どうしたの?』
梓が帰ってきた。
ここで、声を出したら後ろの2人にバレる。
打開策で、後ろの2人を小さく指差せば、梓は察してくれたようで。
『飲み終わったらここ出よっか』
アイスコーヒーを飲み干して、俺はマスクをした。
梓が心配そうにこっちを見ていた。
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こん - 無理しない程度に頑張ってください!応援してます! (2018年10月9日 18時) (レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
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