スプリング (ページ5)

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Aside

目に入る景色、鼻孔をくすぐる春の匂い。
それは正しく、新生活を始めるにはもってこいの日だった。

教師2年目が始まる。

『あ…、あの子、』

赴任先の学校の制服を着た男子生徒が一人。

空を見上げる優しい横顔。

彼がポケットからスマホを取り出した途端
一緒に出たハンカチが地面にポトリと落ちた。

『あ…、』

彼は空にスマホをかざすことに夢中で気づいてないようだった。

『落ちましたよ？』

振り返った彼は私に瞳を据えた。
何も言わず私の手からハンカチを
受け取ろうとしない彼。

『え、？』

慎｢あぁ…、あざっす｣

私に軽く会釈をするとそそくさと去っていった。

何年生の子かななんて思いつつ、
彼が先程カメラを向けていた空に目線を向ける。

青い空に真っ白な雲が浮かんでた。

始業式、赴任式、クラス発表を無事終えた。

2年3組の担任。

前の学校では副担任をしていた私にとって、初めての経験だ。
自分の受け持ちのクラスの生徒たちがいる
教室に向かい、深呼吸をして中に入り、自己紹介。

『今日から1年間2年3組の担任になりました、AAです。

担当教科は国語で、
バスケ部の顧問をすることになりました。
この1年間がみんなにとって充実できるように微力ですが、力になるので頑張りましょう！

1年間よろしくお願いします。』

拍手をしてくれた生徒たちを見渡すと、朝の彼がいた。
1番後ろの席の彼とバチッと目が合い、微笑むと目を逸らされてしまった。

終礼を終え、職員室にもどり、早速資料やらが山積みになっている自分の机に座る。
少しでも早く生徒の顔と名前を覚えようと渡された生徒名簿に目を通した。

教室にペンケースを忘れたことに気づき取りに戻った。

『あ、…』

窓から入る春の風がカーテンを優しく揺らし、
暖かい日差しが教室を柔らかく包み込む、
そんな空間に彼がいた。
何かを見ていた。

『あれ、？忘れ物？』

慎｢わっ…！！｣ﾋﾞｸｯ

『ごめんなさい
えーっと、長谷川…、くん？だっけ、』

慎｢…、そうっす｣

『よかった、そういえば朝会ったよね？』

慎｢はい、｣

『教室入ってすぐ気づいてなんか嬉しかった』

不思議そうにこっちを見る彼。

慎｢僕、先行くんで、じゃ、｣

『え、あ、ごめんね。あ、』

慎｢…？｣

『よろしくね、1年間』

慎｢よろしくお願いします、｣

なんだろう。

不思議な感覚だった。

何かを見透かされてそうで彼の空気に飲まれそうだった。