９・その花 ページ9
・
「退院祝いに持ってきてやったぜ。俺のライブん時にはこの50倍の花束が届いてたぜ。」
「なんだつまらん自慢話か。だいたいな、死んでもないのに花なんか持ってくるな。」
「安心しろ。じいさんが死んだ時には花なんか持ってかねぇから。」
紫色の花を花屋で包んでもらった。
花の種類なんてわからないから
適当に店内歩いて
「これがいい」と
指差したのがそれだった。
俺とじいさんのような、
愛や恋とは似つかわしくない花を選んだつもり。
紫色の星みたいな形の花びら…
じいさんの息子夫婦が持ってきた花束はもう枯れていたし、
ちょうど良かっただろう。
じいさんは3日後に退院したけど、
今日は退院した日からもう一週間経ってる。
俺はすぐには帰ってこれなくて…
じいさんが倒れてからもう10日経った。
別に見舞いに来いとか
会いにこいなんて言われてない。
むしろバタバタし終わっただろうと思ったから来たっていうか、
まぁ俺も素直じゃないからな。
「で、また倒れたりすんのかよ。」
「知らん！」
「そりゃそうだ。」
「悪かったな。Aちゃんまで巻き込んで。」
居間に通されて棒立ちしていた俺に、
じいさんは台所に行って茶を淹れ出す。
湯のみに入った茶を昔ながらの丸いちゃぶ台に置いて、
座ったと思ったら急に真面目なことを言う。
花束を肩に担いで立っていた俺は、
真面目な話になったところで、
花瓶を探すふりをして
室内を歩き出す。
枯れた花瓶を見つけて
花を抜き入れ替えた。
枯れた花は
俺の持ってた包みに入れ替えて…
あ、水変えなきゃと思って花瓶を持ち台所へ。
じいさんに背を向けたところで、
なんて言うべきか
一瞬躊躇った。
「次は来いよ。絶対……死んでも。」
「わかった。」
部屋の隅にあった枯れた花瓶は、
俺の持ってきた花で生き返り、
そのまま奥に持っていくのはめんどくさくて
玄関に飾ってやった。
「サイン描くか？」って言ったら、
花の価値が落ちるからやめておけだって。
相変わらずの減らず口で安心した。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 60人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：砂希流
| 作成日時：2018年10月11日 21時
