「貴方と一緒に帰った日」 ページ7
「却説人間、もう昼だ。
昼食を取りに行くとしよう」
「ばれたりしないの?」
「安心しろ、其処も知人が経営している店だ。
私はこの店の常連だし、気味悪がられることもない」
「あっそ」
日も真上に上る頃、二人は赤煉瓦の建物に立ち寄った。
和風の文化が残るこの場所にしてはハイカラな店だ。
カランカランと扉の鈴が鳴り、Aは太宰の手をグイッと引っ張る。
慣れた手つきで窓側の席に座りメニューを開く。
「何が食いたい?」
「……」
「遠慮はするな、私の奢りだ」
「………じゃあ、蟹炒飯」
「判った、なら早速注文を取ろう」
するとAは女給を呼び止め注文を取った。
太宰は蟹炒飯、Aは咖喱を注文した。
運ばれてきた炒飯に太宰は子供らしく目を輝かせていたとか。
−−−−−−
−−−
日もだいぶ暮れ、屋敷へと帰るときだった。
「今日はいい買い物をしたな」
「………」
「お前あんまり喋らないな。
もしかして腹が空いたのか?」
「違う」
「腹が痛いのか?」
「違う」
「好きな子でも出来たのか?」
「ッそれはもっと違う!」
太宰がびっくりしたように否定するのを見て、Aはにんまりと口角を挙げる。
引っかかった、と云わんばかりの笑顔だった。
「やっと笑ったな」乱暴に頭を撫でながら太宰に微笑む。
騙された、と太宰は唇を尖らせた。
「あ、川だ」
「…川がどうかしたの?」
不意に足を止めるA。
太宰は不思議そうにそれを見つめるも、次の発言でその表情を崩した。
「入水してきていいか?」
「は?」
「知らないか?入水。ジサツの一種だ」
「なんで!?」
マセ餓鬼のように澄ました顔を不意に崩される。
否、川を見て入水してきていいかなど、怯まない方が可笑しい。
「昨日も云っただろう、私は不死身の身だと。
だから日夜ジサツの方法を探しては実験することに勤しんでいるのだ。
上手くいけば、呪いを解けない縁者たちの為にもなるだろう?」
「か、変わってる……」
「我が一族には褒め言葉だ」
「なんで!?」
「皆と一緒で平凡だと云われるよりかは幾分か良い」
「矢張り変わってる」
橙色の夕暮れに少年の元気な叫び声と、少女の笑い声が溶けていく。
元気で大変宜しい、とAはまた太宰の頭を撫で、
太宰は子供扱いしないで!と叫んだそうな。
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蒼生。(プロフ) - 3年ほど前にこちらのお話しを拝見し、世界観に引き込まれました。3年間度々見たくなります。何回リピートしたか分かりません(笑)素敵な作品有難うございます。こんな数年も前の作品にコメントしてしまいすみません。心の支えを有難う。 (12月28日 19時) (レス) @page6 id: f9eaaebf52 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 桜月さん» はじめまして桜月さん。私もこの作品を最後まで読んでくださってとても嬉しいです。これからも頑張ります。 (2019年6月25日 21時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - はじめまして!まずは完結おめでとうございます。すごくいいお話でした、めっちゃ感動しました。とても素敵な作品でした、ありがとうございました!これからも頑張ってください、応援させていただきます! (2019年6月25日 17時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 青の兎さん» はじめまして青の兎さん。わたしもこれほど丁寧な感想をいただけてとても嬉しいです。これからも頑張りますので、応援してくれると嬉しいです。 (2019年6月25日 16時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
青の兎(プロフ) - こんにちは、初めまして。青の兎と申します。この作品を読み終わってから、これほど心温まるお話はないだろうと思いました。久しぶりに目を腫らすほど泣きました。とても最高です。そして、この作品に出会えた私は幸せ者です。これからも頑張ってください。応援してます (2019年6月25日 15時) (レス) id: c4e6688834 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:+アリス+ | 作成日時:2018年11月28日 15時