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「資格を失った日」 ページ34

余命宣告から六日目。
食事は知人に頼み、太宰の部屋に運んでもらうことになった。
しかし、朝昼晩全ての食事の三割しか手をつけられていなかった。
悪いときは食べてさえいなかった。
ちょっとした変化でさえ、太宰が弱っていることが目に見えた。







「(私は意地を張っているのだろうか)」






自分は太宰を突き放した。
悪態を吐き捨て、太宰の意思を尊重しなかった。
もう、太宰の最期を看取る資格などないのかもしれない。






「……」






結局Aは、残りの六日間、太宰の部屋に近付こうとはしなかった。
明日、太宰は死ぬのか。
そう思いながら書庫で本を読む。
その本は、昔太宰に読み聞かせた物語であった。
日が上る頃に、太宰は冷たく眠っているのに気づくだろう。
その方が、少しばかり気が楽になるだろうか。






ーーーーーー

ーーー





時計が十二時を回った。
そのまま時を刻み続け、三時になった。
そろそろ太宰は安らかに眠っただろうか。
矢張り看取るべきだっただろうか?
__否、太宰の方こそ、私と会うことを嫌がるに決まってる。
これでいいんだ__いいに決まっている。






「A」






ドアをノックする音が響いた。
声の主は知人だ、聞いただけで判る。
「ああ、お前か。入れ」とだけ云い、Aはまた本のページを捲った。
知人はドアを静かに開け___。






「あんた、最期まで意地を張るつもりなの?」


「……何を云っている」


「__あの人間、奇跡的にまだ生きているの」







Aの赤目が大きく揺れる。







「でも死相が見えたわ。今日の日の出と共にあの人間は死ぬ」


「だからなんだ」


「会いに行かないの?」







沈黙。
それはずっしりと重く、苦しいものだった。
ページを捲り、紙の擦れる音だけが鼓膜を揺らした。







「……私はあいつを突き放した。看取る資格などない」


「はあ…………」








知人は溜め息をつくと、Aの本を取り上げた。








「もしも最期に会いたい人に会えるなら、あんたは誰に会いたい?」


「そんな人……」


「い、い、か、ら!」


「…………亡くなった母と父だ」







宜しいと知人は頷いた。






「あんたにとってのそれが、あの人間で云うあんたなの。
最期くらい、家族の顔見て死にたいでしょ?」


「!」






Aの顔が弾かれたように知人の方を向いた。
それは泣きそうなくらい、脆かったのだ。

「思い出話をした日」→←「意地を張った日」



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蒼生。(プロフ) - 3年ほど前にこちらのお話しを拝見し、世界観に引き込まれました。3年間度々見たくなります。何回リピートしたか分かりません(笑)素敵な作品有難うございます。こんな数年も前の作品にコメントしてしまいすみません。心の支えを有難う。 (12月28日 19時) (レス) @page6 id: f9eaaebf52 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 桜月さん» はじめまして桜月さん。私もこの作品を最後まで読んでくださってとても嬉しいです。これからも頑張ります。 (2019年6月25日 21時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - はじめまして!まずは完結おめでとうございます。すごくいいお話でした、めっちゃ感動しました。とても素敵な作品でした、ありがとうございました!これからも頑張ってください、応援させていただきます! (2019年6月25日 17時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 青の兎さん» はじめまして青の兎さん。わたしもこれほど丁寧な感想をいただけてとても嬉しいです。これからも頑張りますので、応援してくれると嬉しいです。 (2019年6月25日 16時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
青の兎(プロフ) - こんにちは、初めまして。青の兎と申します。この作品を読み終わってから、これほど心温まるお話はないだろうと思いました。久しぶりに目を腫らすほど泣きました。とても最高です。そして、この作品に出会えた私は幸せ者です。これからも頑張ってください。応援してます (2019年6月25日 15時) (レス) id: c4e6688834 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:+アリス+ | 作成日時:2018年11月28日 15時

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