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「目的を果たした日」 ページ14

暫くの沈黙が続く。
まるで一人で水のなかに潜ったかのような、長く静かな沈黙だ。






「……お前らはこいつを怖がった。だから捨てた」






沈黙を破ったのはAだった。
ワインレッドのドレスを揺らしながら前へと出る。
その深紅の目は心臓を凍てつくように鋭く冷たかった。






「こいつは八つながらにして殺人鬼の持つような冷たい目をしていた。
それだけではない、並大抵の人間が持たない才能と賢さを持っていた」


「私たちは怖がってなど!」


「じゃあ何故捨てた?」







Aは重低音の声を響かせる。
怒りを含んだその目は、それこそ殺されるかのような殺気を持っていた。
太宰は小さく震える。
Aが怖いからではない、過去をさらされるのが怖かったのだ。






「お前たちは恐れた。
こいつに殺されるかもしれない未来を。
だから切り離したのだ」


「ッ!」





「五月蝿い」か細くそう聞こえた。
その声はだんだんと大きくなりつんざきそうなほど痛々しい叫びへと変化した。






「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!
お前に何が判る!あの人を見透かすような目を!
いつか殺されるかもしれない恐怖を!」


「………」





男の叫びをAは見下すように見詰める。
愚かな人間だ、そう思った。






「我が子を怖がった名門の当主の末路。
これは中々の見物だな」






ふとAは気付く。
回りのざわめきと尋常じゃないまでに人々が発する恐怖を。
当たり前だ、化け物が突然現れてこんなことするなんて怖いに決まっている。
あちゃー、と口をパクパクさせながら云うと、






「人間、少々目立ちすぎた。
故に帰るぞ」


「う、うん」






不味い、と冷や汗を垂らしながら太宰に話しかけた。
だが






「待て」


「!」






金属の噛み合う音。
聞きなれた音だった。
振り向くと、血眼になりながら拳銃を向けるあの男の姿になった。






「これはこれは、没落した当主様からの処刑かな?」

「拳銃を向けられた日」→←「過去を清算する日」



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蒼生。(プロフ) - 3年ほど前にこちらのお話しを拝見し、世界観に引き込まれました。3年間度々見たくなります。何回リピートしたか分かりません(笑)素敵な作品有難うございます。こんな数年も前の作品にコメントしてしまいすみません。心の支えを有難う。 (12月28日 19時) (レス) @page6 id: f9eaaebf52 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 桜月さん» はじめまして桜月さん。私もこの作品を最後まで読んでくださってとても嬉しいです。これからも頑張ります。 (2019年6月25日 21時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - はじめまして!まずは完結おめでとうございます。すごくいいお話でした、めっちゃ感動しました。とても素敵な作品でした、ありがとうございました!これからも頑張ってください、応援させていただきます! (2019年6月25日 17時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 青の兎さん» はじめまして青の兎さん。わたしもこれほど丁寧な感想をいただけてとても嬉しいです。これからも頑張りますので、応援してくれると嬉しいです。 (2019年6月25日 16時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
青の兎(プロフ) - こんにちは、初めまして。青の兎と申します。この作品を読み終わってから、これほど心温まるお話はないだろうと思いました。久しぶりに目を腫らすほど泣きました。とても最高です。そして、この作品に出会えた私は幸せ者です。これからも頑張ってください。応援してます (2019年6月25日 15時) (レス) id: c4e6688834 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:+アリス+ | 作成日時:2018年11月28日 15時

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