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十話「届かぬ声」 ページ11

夜の倉庫内三人の笑い声が響く。
このまま幸せな時間が何時までも続けばいい
誰もがそう思うだろう。
だが幸せな時間は……平和な時間はそう長くは続いてくれない。
たった一つの物音が敦の恐怖をよみがえらせる。






「却説、そろそろかな」


「?」





太宰の言葉に首をかしげるA。
そして太宰が月を見上げると、それにつられるように敦たちも月を見る。
今宵は月が綺麗だ。
狼男……否、月下獣が出てきそうなくらいに。





ガタンッ





後ろから物が倒れる音がした。
敦の瞳に恐怖の色が見え始める。






「今…そこで物音が!」


「そうだね」







太宰は冷静に言葉をかえす。







「きっと奴ですよ太宰さん!」


「違うよお兄ちゃん、風で物が落ちたんだよ」





Aは敦をなだめるように声をかける。
不安と恐怖で一杯になる敦は立ち上がり、床に降りる。
太宰の冷静さに違和感を覚える二人。








「ひ、人食い虎だ!僕とAを食いに来たんだ!!」


「座りたまえよ。敦君。あんな処から虎は来ない」


「そうだよ、お兄ちゃんは心配しすぎ」







敦を興奮させて虎に変身させてはいけない
Aはその使命を果たすために必死に敦をなだめる。







「ど、どうして判るんです!」


「そもそも変なんだよ、敦君」






持っていた本をパタンと閉じ太宰は云った
そして太宰のその言葉を聞いた瞬間、Aは察した。
この人は虎の正体を知っている、と。






「経営が傾いたからって養護施設が児童を追放するかい?
大昔の農村じゃないんだ。
いや、そもそも経営が傾いたんなら二人追放したところでどうにもならない。
半分くらい減らして余所の施設に移すのが筋だ」


「太宰さん、何を云って……」






なにが何だかさっぱり判らない敦。
ふと自分を照らす月を見上げた。







「君たちが街に来たのが二週間前。
虎が現れたのも二週間前。
君たちが鶴見川べりにいたのが四日前。
同じ場所で虎が目撃されたのも四日前」







敦の心臓がドクンとなる。







「!?……だ、駄目!!お兄ちゃん!!」







敦が虎になってしまうと焦るAは必死に敦を止めようとする。
だがその声は敦に届くことはなかった。

十一話「虎と風と兄弟と」→←九話「虎探しを手伝います」



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設定タグ:文スト , 中島敦 ,   
作品ジャンル:アニメ
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+アリス+(プロフ) - 野良神さん» 誤字の指摘ありがとうございます。すぐに直しますね。 (2018年12月24日 10時) (レス) id: 87d894de71 (このIDを非表示/違反報告)
野良神(プロフ) - 13ページの異能力が維能力になってますよ! (2018年12月24日 9時) (レス) id: 98ee09b097 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - issuさん» 判りました。こちらの不具合かもしれないので直してみます。この作品を見てくださりありがとうございます (2018年10月13日 21時) (レス) id: 87d894de71 (このIDを非表示/違反報告)
issu(プロフ) - はい! (2018年10月12日 22時) (レス) id: 9f68ff9d03 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - issuさん» イメ画は設定のところにあるもののことでしょうか? (2018年10月12日 20時) (レス) id: 87d894de71 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:+アリス+ x他1人 | 作成日時:2018年4月6日 17時

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