【短編集】懐中時計のダーツ盤【あんスタ】 (ページ2)

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磨けば光るはずだからページ2

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ぼんやりと城を眺めてると、ぶるりと体が震えた。時計を確認しなくとも、闇に沈むような夜空と、城から漏れてくる優雅な音楽から、もう夜も真っ只中であることはわかった。
その少女は、低気温なのにも関わらず、なかなかにみずほらしい、防寒など一切していない格好で、自分の家のドアに寄りかかりながら城を眺めていた。体が震えようとも、目蓋が落ちそうになろうとも、彼女はそれをやめなかった。
その夜、城では舞踏会が開催されていた。それは、王子の妃を決めるという意味合いも持たれていて、大々的なものであった。数々の貴族のところには招待状もバラまかれたと聞く。この少女__Aは、それに参加したいとなんども親にごねたのだが、身分の低いただの村娘が行ってなにになるんだと言われ、何も言い返せなかった。
Aは溜息を吐いた。今頃、何人もの女が、彼の虜になっているのだろうと。バカな女共だ。あの王子の被った猫に、まんまとメロメロになって。口付けをしてから、きっと後悔するのだ。なんてイヤなやつだ、と。

Aがごねたのには理由があった。Aだって、ただの王子の舞踏会だったら行きたいとなんて思わない。面倒くさいし、恥晒しになるだけだ。けれど、ここの王子は、泉。……彼は、Aの古き友人であった。とても仲がいい、なんてことはない。幼いころに、お互いが迷子になっていたところに鉢合わせて、それから文通で関係が続いているだけのこと。Aは、幼き頃に一度顔を合わせただけの彼に、恋をしていた。まさか、村で迷子になっているやつが王子だなんて思わなかったから、おこがましいとかいう気持ちなど一切なしに、彼に好きになってしまった。その後、彼が王子だということを知っても、その想いはなかなか消えることはなく、それどころか強くこびりつくものだから、もう彼を諦める気もなかった。

「A。いつまで外にいるの。もう寝る時間よ」
「……はぁい」

12時の鐘がなり響いた。城から溢れてきていた音楽は徐々に存在を消していき、鐘の音がやけに虚しげに空気を伝わる音が目立ちはじめ、余計に気分が沈んだ。Aは、今日何回目かの溜息を吐いて、力なく家に入った。

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