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衣更くんは頑固だった。
私が、何度もこの捜索の事を意味のない行為だと言っても、見つかるから、と返すのだ。
あぁ、可愛くない。素直に受け入れればいいのに。そしたら、こんなくだらない隠恋慕なんて終わるのに。どうせ、君がアリスを見つけることなんて、出来ないんだ。私だって、無理だ。穴に落ちた人間をどう助ければいいんだ。きっと、あの穴は深い。クレパスよりも、もっと。抜けたら不思議の国にでも繋がっているんじゃないだろうか。
「はあぁ…………衣更くんて、困った人だね」
「なんだよ、いなくなった人の事は、何としてでも見つけ出したいだろ」
「じゃぁ1人でやっててよ……」
本当に、困った人だ。衣更くんが分かるよう、大袈裟な溜息をついてやると、本人はそれを見て、何故か笑う。無駄に爽やかに、その口角をあげ、
「お前がいなきゃ、意味ねぇから、やだ。」
そんな台詞を吐いた。私はと言うと、驚いてしまって、声も出ない。今、衣更くんが何と言ったか、理解しようと、意味を探そうとする事に全力を注いでいるから、周りの音なんて耳に入ってこなかった。そんな私を見て、衣更くんは、また笑って、無意識のうちに止まっていた私の足を、手を引っ張って動かした。
ハッとなり、目の前の彼に視線を寄越すと、バッチリ目が合ってしまって、何か言おうと、口を開いたが、私が言葉を発する前に、衣更くんが紡ぐ。なんてことないような顔で、自然に言うものだから、その言葉がどれ程重大なものなのか、その時はよく分からなかった。
「てか、俺はアリスを探しに来た訳じゃねぇし、見つからなくたっていいんだよな」
キャパオーバー。元から少しごちゃごちゃしていた私の頭は、考える事をやめてしまった。それ程、意味が分からなくて、おかしな事を言った衣更くんの言葉を、理解しようともせず、機能を停止した。
一体、私達は何をしているのだろう。アリスの場所を伝える事も出来ず、本当はアリスを探そうとはせず、あぁ、全く、衣更くんは困った人だ。
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