すぺしゃるしーと Ⅲ (ページ32)

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The 112th seat. ページ32

下を向いてた顔をゆっくりあげて

振り向いたA

「い、いつからそこに？」

『ただいま。は？』

「ただいま…です」

『うん、おかえり。俺ね、待ちきれなくて二時間前からここにいんの。』

「二時間も前から！？」

『ゲートから出て来て、すぐ気づくかな？って思ったんだけど、全然気づかないし…』

「声かけて下さいよ…」

『ごめん、ごめん。なんか…キレイになったな～って見惚れてたら、タイミング逃しちゃって』

「…っ、またまたご冗談を」

『とりあえず、ここじゃゆっくり話せないから、場所移動していい？』

Aの荷物を持って歩きだした

本当は今すぐ抱き締めたいけど

もうちょっと我慢

Aを助手席に乗せて、運転席に乗り込むと

隣で大きく深呼吸した後に

ふふっと笑ってボソッと“懐かしい”って

あぁ…やっぱ、一回抱き締めとくかな

そんな事を思いながら向かったのは

二人で初めてプライベートで訪れたカフェ

店に着いて中に入ろうとしたら

後ろで一瞬立ち止まったA

誰からか届いたメールに返信をして

ポケットにしまったスマホをポンっと叩いた後

表情がキリッとなった

あの時と同じ表情…

何かを決断した時の、俺に、

海外支店に行くって打ち明けてくれた時の表情

何かまた、とんでもないことを告げられるんじゃないかって

こっちまで、表情が固くなった

そういえば、Aも話したいことがあるって言ってたし

Aの話を聞く前に

俺が先に話したいけど…

注文を終えても色々考えてたら

Aはどこに座ろうか迷ってて

『何迷ってんの？ここしかないっしょ』

ここ来たら、いつも座っていた“定位置”に腰を下ろした

『そういえば…時差とか大丈夫？眠くない？』

「はい、大丈夫です」

『話しあるって言ってたよね？』

「あっ、はい…でも櫻井さんもあるって…」

『Aから先にどうぞ？俺の話しは、ちょっと…ね…困らせるといけないから』

俺から話そうか散々迷ったけど

いきなり『結婚してほしい』なんて言って困らせて

Aが話したいことを話せなくなったら

申し訳ないと思って、お先にどうぞ。って告げると

スゥーっと息を大きく吸って

「櫻井さん、時間がかかるかもしれないですが、最後まで聞いてくれますか？」

真っ直ぐ、俺の目を見つめるもんだから

俺もそらさず、真っ直ぐ見つめ直した

『うん、最後まで…ちゃんと聞くから。ゆっくりでいいよ』