すぺしゃるしーと Ⅲ (ページ29)

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The 109th seat. ページ29

『今のって…潤の声？』

「あっ、はい。お昼ご飯、作りに来てくれて」

『そっか、よく作りに来てくれるの？』

「いつもは、松本さんの家に行くことが多いんですけど、冷蔵庫の中身も処分しなくちゃいけなくて。まぁ余ったら、すぐ上なので、あげちゃってもいいんですけどね」

ん？ちょっと待て…すぐ上って…まさか

『すぐ上って？』

「あっ、松本さんと同じマンションだったんですよ！私の2つ上の階なんです」

はぁぁぁぁ!?!?俺、そんなこと聞いてねぇし
もしかして、Aの物件を決めた時には
もう、引っ越し決めてた？

少し黙り込んだ俺に気づてか

「あの、宅配来たみたいなので…また、帰国の時に連絡しますね」

ってAは電話を切った

*

『どういうこと？俺聞いてないし、あの時ちゃんと言ったよね？』

Aに話してから1時間後
もう、自分の家に帰ってるだろうと
俺は潤に電話をかけていた

「やっぱり来たか…」

『お前なぁ…やっぱりってなんだよ！俺、一緒のマンションはダメって言ったよね？』

「そんなこと言われてもさ、その時はもう、契約して住み始めてたし…それに俺よりも先に、勝手に物件紹介したの翔君じゃん！」

『っ…そうだけど、何かあったら…』

「何かあったら、どうする？」

『まさか、何かあったのか』

急に声色が変わって、潤が真面目モードに入った

2人の秘密的な何かがあったのか…

考えていたら、電話の向こうでクスクス笑いを堪えてる声が聞こえてきて

「安心してよ(笑)Aちゃんの頭の中には、いつだって翔君しかいないから」

そういって、向こうでの色んな話を聞かせてくれて
俺が思っていた以上にAが頑張ってた事なんかを聞いて
今すぐ抱きしめてやりたいって思ったんだ

*

「これは、どうかしら？」

『却下、駅から遠い』

「遠いって、徒歩10分も掛からないじゃない…じゃぁこっちは？」

『それも却下。2階とか、誰かに覗かれるかもしれねぇじゃん』

さっきから、天音がイライラしてるのは、ちょっとだけ感じてる
どの物件もいい条件だと思う

だけど…潤と同じマンションだった話を聞いて
そのシチュエーションなんかいいなぁ
なんて思い始めたら…なかなか物件を決められないでいる

「そしたらこれは？駅まで徒歩3分、オートロック付き、6階角部屋」

『却下、俺の家から遠い』

「あのねぇ！私も仕事終わりで探してるのよ！それに、今更松本に対抗しなくてもいいでしょうよ！もう…あとは櫻井が見つけて来なさいよ！」

そう言い放って、天音は出て行った