恐怖シンドローム３ (ページ27)

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第百十一話　調ページ27

あれから、しばらくがたった。

　シェルターに避難する人も、もういない。皆、避難を終えたのだ。尾冷町はゴーストタウンと化している。歩いている人間だって、もうずっと見ていない。もしかすると、僕が見落としているだけなのかもしれないけど。

　父さんの作った飛行艇エルピスには、僕達家族の他にも何人かが乗り込んでいた。小さな女の子や、機械仕掛けの異形まで。

「どうしてゼロ生物まで乗り込んでるんだろう……？」

　本来なら観賞魚でも入れる予定だったのであろうか、廊下に設置された巨大水槽の中では、アルティス本部の湖に生息していたはずのゼロ生物、スキュラが気ままに泳いでいた。肘の辺りで食い千切られている誰かの腕を咥えて、まとろんでいる。何らかのアクシデントによるのだろうか、かつては犬の後ろ足のような形状をしていた脚は、毛皮の生えたたこの触手へと変異していた。

「良いじゃない、だってこんなにも可愛らしいのよ？ああ、見て！美味しそうに餌を囓ってるわ！なんて可愛いの？！ねえ、可愛い子犬ちゃん、こっちを向いて？」

　蝙蝠の翼にねじれた角という、まさに絵に描いた悪魔のような姿をしたゼロ生物、サタンがきゃっきゃと声を張り上げた。

　僕達は避難し損ねた人達をこの飛行艇に乗せている。多くは地下シェルターに運んでもらって、そしてそこで避難生活を送るのだが、ほんのわずかな人々は、ここに留まる事を選んだようだった。

　まあ、水槽のスキュラや、機械仕掛けの異形……ゼロ＝ティンダロスといった凶暴なゼロ生物は捕獲したんだけとね。

　本来、彼らはゼロ生物の中でも相当凶暴な性質を持ったゼロ生物のはずなのだけど……自身の欲求が満たされれば、そこまで暴れたりはしないようだ。いくらこの飛行艇が丈夫に作られているとはいえ、強い力を持ったゼロ生物二体に暴走されてはさすがに持ちこたえられそうにないしね。

　まったく、いったいどうしてこんな爆弾を飛行艇に乗せたんだろう……。

　……え、そろそろ出発するって？どこに？

　……僕達は逃げないの？ここにいるの？それって大丈夫なのかな……撃ち落とされたりしないよね？

　なぜか外国が次々に滅んだらしいけど……向こうでもいろいろあったんだろうな。アルティスが放った生体兵器を抑えられなかったのかもしれない。

　まあ、それにしたって僕達がやるべき事は変わりないさ。

　この飛行艇に乗って、どこかで苦しむ誰かを助けるんだ。