第百十話 ___ ページ26
荒れ果てた大地に転がる瀕死の男。片目を潰され、引っ張ってもらえる腕も失った彼の心臓に、一人の少年が銀の刃を突き立てようとしていた。男の服に切っ先を軽く刺したまま動かない少年。そこへ凛とした声が響く。
「オグマ!何をやっているの!?」
空色の髪を揺らしながら、女性が二人の元へ駆け寄った。
オグマと呼ばれた少年は、こともなげに言う。
「……ルースさん。俺はただ、母さんと父さんを苦しめてたやつを……」
「だとしても、ここまでやる必要はないでしょう!?確かに、多少は痛めつけてやらなければいけないけれど」
突如として現れた謎の女性に、男の虚ろな片目がゆっくりと動く。
「……おまえ、は……誰だ……?」
振り絞るような微かなその声に、女はほっと溜息をつく。
「わたくしの声が聞こえて、返事ができるのなら結構ですわ。クランクハイト、貴方はまだ生きられる。……いえ、生きなければならない」
「……何故だ」
「オグマと何があったのか、わたくしには知る由もありませんわ。でも何があったとしても、貴方は生きなければならない」
その力強い言葉に、虚像を映す瞳が潤んだ。
「オレは……オレを『愛した』ひとは皆死んだ……苦しみながら、死んだ。オレの『愛した』ひとは皆不幸になった。それでも……それでも、生きろというのか」
「わたくしの血を飲めば、生きることができますわ。わたくしと契約を交わしなさい。わたくしの下僕となりなさい。そうすれば生きることができ、死ぬことはなくなるでしょう。貴方の言うことが真実か、もう少し生きて確かめてみてもよろしくなくって?」
黙り込んだ男の足を、少年が軽く蹴った。
それを女は一睨みして軽く諫め、再び話を始めた。
「死ねば全てが清算されるなんて甘い考えをお持ちなら捨ててくださいな。わたくしの血を飲めば永遠を生きることとなり、死の解放を得ることはありません」
「……それで?」
「わたくしが貴方に呵責を与えますわ。わたくしにすがり付きなさい、わたくしに平伏しなさい、わたくしに尽くしなさい、そうすれば貴方に罰が与えられるでしょう」
「……ふん、好きにしろ……どうせこの体は何をしたところで死ぬんだ……」
「……では、わたくしとの契約に同意したとみなしてよろしいかしら?」
「……後で暴れてもいいってんなら聞いてやる」
女はにこりと頷くと、自らの手首に傷を入れた。
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ミクミキ(プロフ) - 完結しました〜 (2019年9月8日 20時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年9月8日 20時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 終わりましたですー (2019年9月2日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しますですー (2019年9月2日 21時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 終わりました! (2019年9月1日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
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