恐怖シンドローム３ (ページ17)

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第百二話　クランクハイトページ17

三年間、というのは実に長いものだった。
あの日以来、ずっと待ちわびてきたこの瞬間は何の前触れもなく訪れた。

「……あァ、総帥殿……」

つい数分前まで、この部屋はオレ以外に誰もいなかった。
だが今はこの部屋にいるべきお方がオレのそばにお立ちになっている。

「……どうしたんだ？俺はここにいるぞ」

総帥殿は三年前と変わらぬ笑みを向けてくださる。嗚呼、いくつもお話ししたい事を考えていたというのに、いざ御本人を前にすると発すべき言葉を見失ってしまう。

「おーい、生きてるかー？」

「……はっ、申し訳ありません、ついぽんやりとしてしまいました……」

「そのくらいの事で謝るな。何の連絡も無しに来たから、準備が出来てなくて当然だからな」

総帥殿は眼鏡の奥から柔らかな視線を向けてきた。その眼差しに思わず頬が緩み、さっと総帥殿の前に跪いた。

「……総帥殿、どうか再びオレに命令を下さい。オレは、総帥殿かオレが死ぬまで、総帥殿の忠実な部下であろうと誓いましたので」

「命令、か……」

総帥殿はふらりと窓際へ向かった。眼下に広がる街並みは煙に包まれ、人とも獣ともつかない生物が蠢いている。

「圧巻だな」

「でしょう？カンパニー時代のノウハウがあって助かりましたよ。あれだけの数の生物兵器とゼロ生物があれば、この愛と恐怖に溺れ狂った世界を叩き潰すなど容易な事です」

「……壊すんだな、全てを」

「ええ、そうです。その為に、あの日から総帥殿と共に、生物兵器を作り続けていたではないですか」

一瞬、総帥殿が悲しげな表情を浮かべた。

「……菓子屋がなくなったら困るな」

「そうでしょうか」

「チョコプリンの美味しいあの店も壊すのか？」

「……それは……確かに困りますね。では、少し外に出てきます」

総帥殿が菓子屋がなくなると困ると言うのなら、菓子屋を守るのがオレの役目だ。早速オレは部屋を出ようとした。

「待て、クラン」

背後から総帥殿の声が投げかけられた。どうしました、と振り返る。

「俺も付いていくぞ。また離れ離れになったら、お前が悲しむだろう？」

「……いえ、その必要はありません。この程度で総帥殿の手を煩わせたくありませんし、なにより外は危険です」

なら尚のこと一緒にいた方が、と声が聞こえてきたが、その時にはもうオレは部屋の扉を閉めていた。
……部屋の鍵はかけないでおこう。オレがいない間に何かあったら困る。