来客 ページ46
「それで、私達は何をすれば良いんでしょうか?」
シャワーを浴び終え、隣に座っていたカチュアがそう訪ねる。まだ乾ききってない、濡れた髪の毛が揺れた。シャンプーの不思議な香りがする。
寝室からダイニングに移動して、席に着く。出迎えてくれた女性職員さんはいない。
「今回は少し特殊な制圧を行うからね……君達に手伝ってもらう事はないんだよね。ここでじっとしていてくれないかな?」
千景さんはそう言う。あたしは少し拍子抜けした。だってそうでしょ?そんな化け物を制圧するっていうから、てっきり制圧を手伝わなきゃいけないんじゃないかと思ってたの。
もちろん嫌だってわけじゃないわ。むしろ、嬉しいくらい。死にたくなんてないんだもの。
「かなり時間がかかるけど、待っててくれる?」
「はい!あの、制圧気を付けてくださいね」
「ありがとう……っと、ちょっと待ってね、連絡が来た」
千景さんが社員証をいじろうとしたその時に、ドアが開く。いなくなっていた女性職員さんが帰ってきたのかと思ったけど、そうではない。
そこにいたのは女の人のようだった。四対八本の手足、多すぎる瞳。蜘蛛を人間の形に無理矢理纏めたみたいな、異質な怪物。
「あ、あんたは?!」
あたしの顔を覗き込んだ怪物だ。悲鳴混じりに声をあげると、その怪物はちらりとこちらを鬱陶しそうに見て、そして視線を千景さんに戻す。
「忘れてないわよね?今回もちゃんと協力するから、あいつをきっちり殺してちょうだいな」
「俺には情報開示権限がありませんので、その件に関しては……ですが、我々ドロモスワークスカンパニーは決して契約を違えない事を誓います」
紳士的な、でも貼り付けたみたいな、露骨に胡散臭い笑顔をして、そう対応する千景さん。
蜘蛛のような怪物……おそらくこいつが女王蜘蛛なんだろう。女王蜘蛛ははぁとため息を大きくついた。そのあんまりな態度にも千景さんは動じず、続ける。
「何かご用でも?」
「新しい男の子をくださる?」
そこで、ようやく女王蜘蛛が何か抱えている事に気づく。それはどうやら、人のようだった。まるで風船でも抱いてるみたいな、あまりにも軽そうに片手に持っているだけだったから、気付かなかったようだ。
黄緑の髪をした男性。弱々しく唸っていて、どうやら死んではいないようだけど、かなり衰弱している。
「……左隣の部屋に一人、男性職員がいます」
「ありがとう」
抱えていた男性を放り捨てて、女王蜘蛛は部屋を出る。
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