衰弱 ページ47
「大丈夫ですか?!」
はじめに反応したのはカチュアだった。倒れて動かない男性に駆け寄る。
男性は全裸だ。そこかしこに、血が出ない程度の小さな噛み跡や引っ掻き傷がある。姿形は人間で、どうやら下級職員さんのようだった。
カチュアは簡単な魔法で職員さんの体力を回復させようとする。あたしはその隣で、職員さんに少しずつ魔力を注ぎ込む。この職員さんは、どうやらかなり魔力を失っているようだったから。
それはどうやら衰弱の大きな原因の一つのようで、しばらく注ぐと苦しむような様子はなくなり、穏やかに寝息をたてるようになった。
「アイン……」
喉の奥から絞り出すように、誰かの名前を言う千景さん。悔しげに顔を歪ませている。アインというのは、この職員さんの名前なのだろうか?
「ともかく、寝室に運びましょう……」
あたしが言うと、千景さんは静かに頷く。ゆっくりと抱き上げて、寝室のベッドに横たえる。
「もし何かあったらいけないので、私が見ておきますね」
カチュアの言葉に力なくああ、と相槌をうち、崩れ落ちるように椅子に座り込む千景さん。
いったい何があったのか、これは女王蜘蛛の仕業なのか。聞こうとしたけれど、とても聞けない。あたしはひとまず、カチュアのそばに座る。
「……ともかく、じっとしていてくれ。それだけで良いから」
「はい……」
疲れはてたみたいな声で言って、千景さんは立ち上がる。俺はちょっと用事があるから。上司に呼ばれたんだ。そう続けて、部屋を出ていった。
あたしは女王蜘蛛の事が気になって、社員証でデータベースにアクセスしてみる。
「反幻想、か……」
女王蜘蛛は魔力……ここの人達がフォボスエネルギーと呼ぶそれを持たない。むしろ、フォボスエネルギーとは相反する力を持っているらしい。無力化ってのと関係しているんだろう。
もちろん、この職員さんの魔力が異常に減っている事にも。
25人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ