打開策 ページ45
「つまり、その622ってやつのせいでこうなったのね」
あたしの言葉に、千景さんは頷く。
「ああ。あいつは定期的に暴走を行うから、対処法が計画されてはいたんだけど……ちょっとしたイレギュラーがあってね」
ため息混じりに言う。そのイレギュラーのせいで、世界は今や危機的状況なのさ。笑えないよ。そう呟いて。
「622の専属職員だったF538、クランクハイト・シャーデンフロイデが幻想体に変異したんだ。622と非常に近い性質を持った、凶悪な幻想体でね。おそらくは622の未知の能力により変質したのではないか、というのが我々の考察だよ」
「どうすれば良いの？」
「本来ならば、622にありったけの麻酔をぶちこんで制圧するんだけど……二匹いるんじゃ話が違う。互いが互いを守ろうとするからね」
そんな。それじゃあ、そいつらをどうやって制圧するって言うの？
あたしのそんな疑問に答えるように、彼は笑った。それは、自分を嘲るような、無気力な笑顔だった。
「化け物には化け物をぶつけるんだよ。近くの部屋に幻想体がいただろう？」
……確かにいたけど。
あたしはちょっと首をかしげた。あいつらに、そんな強そうな化け物を倒せるような力があるとは思えない。
けど、千景さんが言うのなら、それはつまり、少なくともできる可能性があると見なされたんだろう。深く追及するのをやめようとしたけど、彼は優しく教えてくれた。
「女王蜘蛛や虚像の監視者はちょっと特異な幻想体でね……原理を説明するのは難しいし、解明していない点も多いんだけど……彼らは幻想体の能力をある程度無力化できるんだよ。それを応用して、どうにか制圧をするのさ」
……幻想体の能力を、無力化？
奇妙だが、なんとなく理解した。あたしをくるんでいた糸は、その女王蜘蛛のものなんだろう。抜けられなかったわけがわかった。力が無力化されていたのね。
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