おやすみにはまだ早い/tntn ページ10
ハンマーを手にした睡魔に後頭部を勢いよく殴りつけられ、がくんと頭が落ちた。テーブルに額をぶつける寸前で辛うじて意識が戻り、慌てて体勢を立て直す。危なかった。溜息を吐いて温くなったおしぼりを目元に押し当てるが、相変わらず眠気は背後にぴったりと張り付いたまま両肩にその重たい腕を回してくる。
いつもの面子で集まった、居酒屋の座敷席の隅。友人達はまだ酒の入ったグラスを傾けながら楽しそうに談笑しているが、一方の自分はと言うと、既に疲労を含んだ強い眠気に耐えるのが精一杯の所まで来ていた。ここ最近睡眠時間が減っていた所為もあるのか、酷く眠い。だが駄目だ。我慢しなければ。今この瞬間にも、隣に座っている人間が悪戯好きな子供のような顔でこちらを見つめているのだから。
「あれ、もうおねむですか〜？トントンくん」
間延びした声が鼓膜を震わせる。来た。わざとうんざりした表情を押し出してそちらに視線を寄越すが、彼女はそんな事などお構いなしとでも言いたげに、頬に刻んだ笑みを一段階深めてまた口を開いた。
「豚さんはお酒飲んだら眠くなっちゃうもんねえ。我慢しないで寝ても良いんですよ〜」
「……A、お前ほんまに、」
言いかけて、掛け直そうとしていた眼鏡を取り落とす。限界が近付きつつある相手を横目で見ながら、Aはまるで見せ付けるようにして自分のジョッキを口元に運んだ。その小さな手に収まるには些か不似合いな、大ぶりのグラス。つい数十分前までそれを満たしていた黄金色の液体は既に半分以下にまで減っており、もう今日で何杯目かになるというのに全く飲むペースが衰えていない事が窺える。
泡が立ったビールジョッキよりも磁器のティーカップを添える方がしっくりくる見た目を持っていながら、その細い身体はアルコールを分解する為だけに動いているのではないかという酒豪ぶりは、最早仲間内でも"詐欺"として散々使い古されたネタである。加えて厄介なのは、どれだけ飲んでも殆ど素面同然でいるという事。故に、酒の席でこちらの眠気を少しでも感じ取ると今のようにやたらと揶揄ってくるのだ。憎たらしい事この上ないが、酔いと睡魔の所為で頭が回らず言い返す言葉も上手く探せない。目をこすってそれを拭い去ろうとしていると、彼女はまたあどけなさすら残る無邪気な笑みを浮かべてこちらを覗き込んできた。
「よしよし、大丈夫だよ〜。ゆっくりおやすみ」
「……頭、撫でんといてもらえますかねえ」
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万代(プロフ) - ありさんさん» 初めまして、コメント有難う御座います。そのような温かいお言葉を頂けて大変嬉しく思います…！まだまだ至らぬ点などありますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからもご期待に添えるよう精進して参りますので、何卒宜しくお願い致します！ (2020年4月16日 8時) (
レス) id: 41e9c26b05 (このIDを非表示/違反報告)
ありさん - 夜分遅くにごめんなさい。一文一文が丁寧で、読んでいてホッコリした気持ちになれました！素敵なお話が沢山詰まっていて、綺麗に読み終われます。コメント返信も丁寧で、見習おうと思いました……！更新応援させていただきます！長文失礼しました。 (2020年4月16日 1時) (レス) id: 1680e79eb8 (このIDを非表示/違反報告)
万代(プロフ) - ぴゅあらるぐみさん» 初めまして、コメント有難う御座います。お褒めのお言葉の数々、大変嬉しく拝見させて頂きました…！楽しんで頂けたようで、作者として非常に光栄です。不定期ではありますがこれからも少しずつ書いていきたいと思いますので、何卒宜しくお願い致します…！ (2020年3月26日 13時) (レス) id: 41e9c26b05 (このIDを非表示/違反報告)
ぴゅあらるぐみ(プロフ) - 万代さんはじめまして！とっても素敵でリズムのいい文章が心地良くて、にこにこしながら読ませていただきました… 人物一人ひとりが愛らしくてあたたかい気持ちになりました！ご自分のペースで頑張ってください〜！更新応援しております。長々と失礼いたしました！ (2020年3月26日 12時) (レス) id: 2ed32571d6 (このIDを非表示/違反報告)
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