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Episode106 ページ9

「ちょっと寄り道しても良いかい?」

中也の代わりに運転席に座った太宰は、本部ビル近くの公園へ車を進めた。

時間はちょうど日が暮れた頃。
ちらほらとカップルの姿が見える。

太宰は自販機で二人分のミルクティーを買い、ベンチに腰を下ろす。

「ありがとうございます。」

夜になると川辺は冷える。
太宰から受け取ったペットボトルで手を温めるA。
肩にのるネズミは丸まって暖をとっている。

「そのネズミは、弟くんの異能かい?」

「はい。アルジャーノンです。」

Aが手に乗せると、擦り寄ってくる。

「太宰さんも、もう知ってらっしゃるんですね、私の過去。」

責めるようではなく、ただ確認するような口調に、太宰は素直に頷く。

「こんな事を聞く私は、きっと非情な人間なんだと思う。ただの興味だから、答えなくても良いよ。」

真剣な瞳でAを見つめる太宰は、まるで純粋な好奇心に飲まれた子供。

「私には、人が必死に生きる意味がわからない。生きるなんて行為に価値があると思えない。」

Aは真っ直ぐ太宰の瞳を見つめ返す。

この男の自 殺癖の原因は、きっとその頭脳。
全てが予測の範疇、つまらない人生。
唯一わからないのが、生きることの価値。

「君が弟の為に過ごした時間は、君にとって価値ある物だったかい?」

チャーリーの身を守る為だと信じて、手を汚し続けた日々。
しかし、実際は何一つ守れていなかった。
無駄な時間だったと言われても仕方ないだろう。
それでも、

「あります。私の中にチャーリーは生きているし、あの子の中にもきっと私が生きてる。」

アルジャーノンがいることが、何よりの証拠。

「それが何なのか、私にもよくわからないし、愛だなんて言ったら、安っぽく聞こえてしまうけれど、チャーリーと私は確かに繋がってるんです。」

答えになっているか、Aにはわからない。
死者と繋がっているなどと言えば、逆に生と遠ざかっているようにも感じる。

「……私にも、いつかできるだろうか。人と繋がることが。」

「できますわ、きっと。」

そうか、と太宰は少しだけ笑った。

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noel(プロフ) - 星猫さん» いえいえ、ありがとうございます (2020年4月14日 19時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - こちらこそすみませんです;;更新頑張って下さいね。 (2020年4月14日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
noel(プロフ) - 星猫さん» お誘いは凄く嬉しいんですが、今年受験生でして…。コロナのせいで今が暇なだけなので、他の方と合作は厳しそうです。誘っていただいてありがとうございます。すみません!! (2020年4月13日 22時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - あの、私と一緒に合作しませんか? (2020年4月13日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
ぬい(プロフ) - noelさん» うれしいです! 楽しみにしてます (2020年4月11日 14時) (レス) id: 1f95c5a6f6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:noel | 作成日時:2020年4月8日 17時

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