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Episode105 ページ8

帰り道の車の中、助手席に座るAは、珍しく一言も口を開くことはない。
ただ手の中の白いネズミを見つめては、涙を浮かべたり、かと思えば微笑んだり。

リチャードがAに付き添っている間、中也は太宰にも、Aの過去の話をした。

太宰はいつになく真剣な顔で話を聞き、今も後ろで何か考え込んでいるようだ。

「おい太宰。」

道の脇に車を停め、太宰に声をかける。
この辺りはちょうど横浜の一等地。
建ち並ぶ店や住宅も見るからに高級そうな物ばかり。

「何だい?」

「俺はちょっとこの辺で降りるから、テメェはAと先に帰ってろ。」

Aは中也と太宰の会話も耳に入っていないようで、黙ったままネズミの身体を優しく撫でている。

「構わないけれど、どうしたんだい?」

「買い物してから帰る。」

扉を開け、車を降りる。
さすがにAも気が付いたようだ。

「中也さん…?」

「お前は太宰と先に帰れ。」

少し不安げな顔をするAを見送り、或る店へ向かう。

ポートマフィアにあるしきたり。
新人を勧誘した者は責任を持ってその者の面倒を見る。
その証として身につけている物を一つ贈るのだ。

中也はまだ、Aに何も贈っていなかった。

大方の物は太宰との買い物で揃えていた様だし、Aの好みがわからない。
中也が小柄だといっても、Aも小柄な方なので、身に付ける物のサイズも合わない。

着いたのは宝石店。
店内へ入ると、すぐさま女の店員が寄ってくる。

「これと揃いのブレスレットを探してるんだが。」

「贈り物ですか?」

「…まぁ、そんな所か。」

今日買うのは自分用だ。
もともと中也が着けていた物をAに贈り、お揃いの物を自分に買う。

ちょっと重いか…?

だが、何か繋がりが欲しかった。
放って置いたら、Aが何処かへ行ってしまうのではないか。
必死に連れ戻したのに、先程のAを見ると、前より遠くへ行ってしまったような気になる。

しばらく待っていると、笑顔で女性用のブレスレットを出してくる店員。

贈り物とは言ったが、異性相手とは言っていない。
事実着けるのは中也だ。

「……悪ぃが、男物を……これは?」

目に留まったのは、紫の宝石が使われたブレスレット。

「パープルサファイアです。美しい紫が特徴で、凄く稀少な物になります。女性への贈り物にはおすすめですよ。」

Aの瞳と同じ色。
中也が持っているのは中也の髪と同じ色のオレンジサファイア。

「……これをくれ。」

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noel(プロフ) - 星猫さん» いえいえ、ありがとうございます (2020年4月14日 19時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - こちらこそすみませんです;;更新頑張って下さいね。 (2020年4月14日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
noel(プロフ) - 星猫さん» お誘いは凄く嬉しいんですが、今年受験生でして…。コロナのせいで今が暇なだけなので、他の方と合作は厳しそうです。誘っていただいてありがとうございます。すみません!! (2020年4月13日 22時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - あの、私と一緒に合作しませんか? (2020年4月13日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
ぬい(プロフ) - noelさん» うれしいです! 楽しみにしてます (2020年4月11日 14時) (レス) id: 1f95c5a6f6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:noel | 作成日時:2020年4月8日 17時

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