夕焼け色に染め上げて 参【文スト】

Episode135 ページ48

「いらっしゃい。」

「こんにちは、おば様。」

Aが向かったのは太宰行きつけの書店。
一度連れて来てもらってからというもの、Aも足繁く通っていた。

「この前いっぱい買いに来たばかりじゃなかったかい？」

「最近暇な時間が多くて、全部読んじゃった。」

潜入捜査中は、終業後ルパンに行くまでの時間にずっと読書していたため、持っている本を全て読み尽くしてしまったのだ。

すっかり慣れた細い階段を登ると、以前よりも埃が減り、明るくなっている二階。
店主がAのために、と少し改良してくれたのだ。

「この前フランス文学読んだからなぁ。ドイツ語？アルジャーノンは、どれが良いと思う？」

Aの肩に乗るアルジャーノンに尋ねるが、小さい頭を傾けるだけで選んでくれない。

わかる言語が多いと、楽しめる本の幅も広がる。
そろそろ新しい言語を学ぶのもアリかもしれない。

「そういえば日本文学って読んだことない？」

何となく二階にばかり足を運んでいたため、Aの部屋の本棚には洋書しかない。

どうせなら誰かのおすすめとか読んでみたいな。

しかし、本を読みそうな人物など心当たりがない。
一番は安吾だが、忙しい男である上、どちらかというと実用書などを好みそうだ。

仕方ないのでドイツ語の本を数冊と、英語の詩集を一つ買った。

「そろそろお昼時だなぁ。」

一人で食事を取るのはあまり好きではない。
アルジャーノンがいるとはいえ、飲食店では彼も姿を隠さなければならない。

迷いながらふらふらと歩いていると、曲がり角から飛び出してきた少年とモロにぶつかってしまった。

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