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Episode124 ページ37

「ただいま。」

木村邸の玄関をくぐると、住み込みの女中が出迎えてくれる。

「お帰りなさいませ、お嬢様。今晩は旦那様も奥様もお出掛けです。」

お出掛けか。
今日は自由に動けそうかな。

夕食の希望を聞く女中に、食べてきたと嘘をつき、自室に引っ込む。

柔らかな生地の洋服を脱ぎ捨て、部屋着に着替えるが、お嬢様は部屋着すら煌びやかだ。

「昔の生活思い出してヤダ。」

仕事に行って実家に直帰。
正直言って暇を持て余していた。
木村は普段、恐らく友人と遊び歩いているのだろうが、Aがそんなことをする訳には行かない。
無駄な行動は避けるべきだ。

「今日は家に女中しかいないし、寝静まったらルパン行こう!」

そう思うと幾分か心も楽になる。

女中が離れに行くのは夕食後。
今日夕食はないので、一時間程経てば安全だろう。
それまでは我慢だ。

ベッドに寝転がり、ぼんやりと窓の外を眺める。

自分の家に帰れないのは嫌だけど、おかえりって言ってくれる人がいるのは悪くないなぁ。

家にはアルジャーノンがいるとはいえ、話し相手になってくれる訳ではない。
黒い仕事ばかりだと、落ち込んだり、寂しくなったりする時もある。

そんな時にいつも浮かぶのは弟の顔。
自分が俗に言う、ブラコンなのだという自覚はある。
下手すればその域を超えているだろう。
弟なしでは生きていく意味がない。

「チャーリー……。」

それでもAが生きるのは、彼に支えられて生き延びた命だから。
自分という存在が、チャーリーの生きた証だから。

「こんな人生、いつまで続くのかな。」

生きる意味を失ったまま、目的もなくただ時間を浪費する。
母親を捜すという目的はあるものの、何故かAには、彼女はもういないだろうという、妙な確信があった。

両親と弟は既に一緒にいて、自分一人だけが取り残されている。
悲観的でも何でもなく、そう感じていた。

家族のもとへ行ってしまいたい。
この世に繋がりがあったとして、チャーリー以上に自分が強く繋がっているものはない。

「私まで自 殺愛好家(マニア)になりそう。」

自分を憐むつもりはない。
これはチャーリーを守れなかった私への罰なのだ。
そう思うからこそ、Aは生から逃れられないのだった。

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noel(プロフ) - 星猫さん» いえいえ、ありがとうございます (2020年4月14日 19時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - こちらこそすみませんです;;更新頑張って下さいね。 (2020年4月14日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
noel(プロフ) - 星猫さん» お誘いは凄く嬉しいんですが、今年受験生でして…。コロナのせいで今が暇なだけなので、他の方と合作は厳しそうです。誘っていただいてありがとうございます。すみません!! (2020年4月13日 22時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - あの、私と一緒に合作しませんか? (2020年4月13日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
ぬい(プロフ) - noelさん» うれしいです! 楽しみにしてます (2020年4月11日 14時) (レス) id: 1f95c5a6f6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:noel | 作成日時:2020年4月8日 17時

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