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Episode116 ページ29

辺りは既に夜。
太宰に連れられるまま、幽霊のように浮かぶ瓦斯灯(ガスランプ)の通りを抜け、或る店のドアをくぐる。
階段を降りると、そこは雰囲気のあるバーだった。

入り口近くのカウンターには、一人の男が座っている。

「やぁ織田作。君も来てたのか、丁度良い。」

織田作と呼ばれた男は、赤毛に無精髭を携えた二十代程の男。
スツールに座っているが、かなり背が高いことがわかる。

「そいつは誰だ、太宰?」

織田が見ているのはA。

「藤崎Aです。よろしくお願いします。」

Aが軽く礼をすると、男は感嘆の声をもらし、自分の隣を指定する。

「俺は織田作之助だ。お前の話はいつも太宰から聞いてるぞ。会ってみたかったんだ。」

表情筋は凝り固まっているが、なかなかに人の良さそうな人物だ。

Aが織田の横に腰掛けると、左側に太宰、安吾と座る。

二人が口を揃えていつもの、と言うと、マスターは黙って蒸留酒と黄金色の液体を置く。

「何になさいますか?」

尋ねられるAだが、最近はお酒にも慣れたものの、種類にはあまり詳しくない。

「えっと……。」

返答に困っていると、かわりに太宰が答えてくれた。

「彼女にはユニオンジャックを。」

差し出したのは美しい紫色が妖艶なカクテル。

礼を言って一口飲むと、甘美な香りが広がる。

「三人はいつもここに?」

「そうだね、集まってるつもりじゃないんだけど、結果的にいつもそうなるんだ。」

不思議な縁とでもいうものなのだろう。

なんだ、太宰さんにも繋がりあるんじゃん。

Aはどこか安心した。
きっと本人が気づいていないだけで、ここには友情という、人としての繋がりが存在している。

その後は四人で色々な話をした。
仕事のことなど関係なく、立場の違いなど存在しないように。

いつになく楽しそうに馬鹿をする太宰。
太宰の言動を一々間に受ける織田。
それに突っ込む安吾。

Aにとっても、それは新鮮な空間であった。
薄汚れた闇の世界の中で、四人のいるこの酒場だけが、瓦斯灯に照らされていた。

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noel(プロフ) - 星猫さん» いえいえ、ありがとうございます (2020年4月14日 19時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - こちらこそすみませんです;;更新頑張って下さいね。 (2020年4月14日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
noel(プロフ) - 星猫さん» お誘いは凄く嬉しいんですが、今年受験生でして…。コロナのせいで今が暇なだけなので、他の方と合作は厳しそうです。誘っていただいてありがとうございます。すみません!! (2020年4月13日 22時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - あの、私と一緒に合作しませんか? (2020年4月13日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
ぬい(プロフ) - noelさん» うれしいです! 楽しみにしてます (2020年4月11日 14時) (レス) id: 1f95c5a6f6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:noel | 作成日時:2020年4月8日 17時

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