悲壮。 ページ31
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「……っあ、」
時を引き裂く金属の音、時を忘れたかのように鳴り出す雨の音。
あれ、こんなに雨、降ってたっけ。
ふと視線を下に降ろせば俺の腕には黒い猫が。
そして今更俺は
自分の唇が彼女に届かず空中を掠めたことを知った。
…ということは。待って、何で?
────────間に合わなかったの…?
動きやしない、言葉も通じない生き物を揺すった。
「A…!?頼むからもう一度だけ話させてくれよ!ねぇ……っ!」
そして俺の声も誰にも届かず虚しく地面に落ちた。
虚無。
何も無いこの世界は灰色に見える。
本来の黒猫の姿をしたAさん───────
いや、俺の愛した猫のクロは、俺の腕の中で息を引き取った。
眩しい光が俺の視界を閉ざした瞬間、恐らく彼女は雨の不思議な力でネコの姿に戻り亡くなった。
「なん…でっ、なんで!」
声を押し殺して泣いた。
これでもかってくらい泣いた。
俺の濁った涙は頬を伝い動かないただの抜け殻へと化したAさんに落ちていく。
駄目だ。彼女を俺の涙で穢してしまう。
慌てて目元を抑えるがそれは止まることを知らなかった。
愛してるっていう言葉よりもっと君を愛していたし、君が思っているより俺は君のことをずっと考えていた。
だから、せめて最後にキスを交わして────
その後に、言うつもりだった。
"例えこの世が終わってしまっても、俺のこの好きだという気持ちは永遠に変わらない"
そんなプロボーズじみた言葉をAに贈り、俺なりの最高の愛でAさんを満たしたかったのに。満たされたかったのに。
全て俺がいけなかった。
段取りの悪い自分が行けなかった。
間 に 合 わ な か っ た の だ 。
力の入らない彼女を優しく撫でた。
脈打たない身体に黒い毛並み。
細くて長い可愛いしっぽ。
つり目がちな青い瞳でしなやかな動き。
麗しいツヤツヤとした黒髪。
細身の美女。
クロも、Aも、どちらも好きだった。
俺は、お前が居なくなったこの世界でどうやって生きていけばいい?
何も考えず、今まで通りに生きろと?
そんなの、無理だよ…。
絶望に満ちた瞳をふと下に落とせば光る物を見つける。
彼女の生きた世界と死んだ世界の境界線を引いた金属の音の正体を俺は今知った。
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眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時