昏睡。 ページ23
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「うっわ、まじかよ、嘘だろ?」
夢が正夢になってしまったような感覚に貶められる。
これぞ正に人間が稀に見てしまう予知夢って奴だ。
昨日確かにそこにあった温もりが、朝方には消えている。
ねぇ、俺の前から居なくなったりしないよな…!
首元に残る彼女の跡を指で撫でればじわりと心地よい痛みが身体を走った。
────────君は、今何処にいる?
"大好きだよ"
そう愛をくれた君は俺を置いて今どこへ?
出会ってからまだ数週間。
でも実際に会えたのは1日30分のみ。
ちゃんと時を過ごしたのは昨日のたったの一夜だけ。
でも、それだけの戯れでも俺は幸せだった。
やっと掴んだ幸せだった。
ただ走った。
だから走った。
あの日のように、何も手に持たずに雨の中走った。
傘なんていらない。
だって、俺は雨が
少女に出会って、俺は雨が好きになったから。
大好きな雨に晒されるのなら構わない。
傘なんていらねぇ。
みっともなく全身を濡らして肩で息をしながら街を駆けた。
その姿はきっと普通ではなくて
この街の景色から浮いているのだと思う。
それで良かった。
それが良かった。
あれだけ景色に紛れ調和し合うことを求めた俺は、
自分だけが周りと違う、そんな世界を好きだと今なら
叫べる。
行き先なんてただ一つ。
俺とAさんと言えばここしかないだろう?
ぴちゃんっと雨音を立ててその公園へと立ち入れば
そこは異様な空気に包まれていた。
俺は小さく少女の名を呼んだ。
本当に、弱々しい頼りない小さな声で。
言葉にならない感情の全てを彼女の名に込めた。
「Aさん!!!!!」
2度目の声は鋭い刃のように真っ直ぐと少女に突き刺さる。
やはり彼女はこの世の生き物では無かったのだ。
彼女は彼女として確かにそこに存在しているのに。
何かが違うんだ。
何が違うんだ?
公園に設置されたテーブルにへこたれたように眠るAさんを大きく揺らす。
「……Aっ!!」
────────呼び捨てで、呼んでみる。
雨の音に掻き消されないように、
自分の言葉が彼女だけに届くように。
もう何も求めないから。
真面目に部活も行くし、勉強だって頑張るから。
何もいらないからせめて彼女の美しい瞳をもう一度見たいと、
強く願う。
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眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時