あなただから。【青】

・ ページ19

・

『ばか、ころんのばか』


あろう事か、僕は彼女に抱き締められている。


これは夢なのだろうか。
夢ではないと、許されない気がしてならない。



「え、何、どういうこと…」



『何で、今言うのさ』




彼女の頬が美しい透明の液体で濡れている。
僕はそっとそれをあの日のようになぞった。




─────私もころんのこと好きだったよ





暫く沈黙が続いた後、彼女がふとそう言った。




「え」



ただ僕は君の瞳を疑った。

失恋した僕に同情する為についた小さな嘘なのではないか


何度も君を心を疑った。




『私ね、街を出る日、ころんのことを好きでいるのを辞めたの』




「ばっ、なんで」




そう問えば君は、"ころんに私は相応しくない"
と自虐的に笑うんだ。




『ずっと隣にいたのがしっかり者のころんだったから変な男に騙されること無く無事に大好きな人と巡り会って結婚することが出来たの』




彼女は僕に憎らしい指輪を見せた。




『私、馬鹿だから盲目だった、ころんしか見えなかった』






───じゃあ何で





そう聞こうと思って口を閉ざした。




それは僕も同じで、自分がもう少し強くて正直者だったら叶っていた恋だと知ったから。






「なぁんだ。両思い…だったんだ」





僕のおかげでAは世界一、愛する人を見つけた。


それは、僕よりも…愛せる人。





あぁ、なんて大馬鹿者なんだ。
どこまで僕は、お人好し？




少しくらい、僕だって報われてもいいじゃないか。






「…僕、怒ってるよ」

素直に告白出来なかった過去の自分に。


『私も怒ってる』

だったら彼女は何に怒っているのだろうか。





「ねぇ、最後のお願い」

『うん』




ここは僕とAの2人きりの空間。


…バレなければ、いい。





彼女の首元にそっと顔を疼くめた。




僕の知らない、他の男の香りがした。




「…僕ばかり好きなんだと思って、何も知らない顔してたお前にずっと妬いてた」






悔しくて、届かなくて





じゅ、と鈍い音が鳴った。




それは、世界一甘くて、苦かった。



ほろ苦いじゃ済まされない。





実の旦那よりも新鮮で新しい濃い跡がついた。
Aの表情も心做しか満足気に見えた。



まるで


これでちゃんところんとお別れできる



とでも言うかのように。





僕は時が止まって欲しくてただ君を抱き締めていた。






このまま逃げたい




非道な考えが頭を過ぎるのは





"恋を終わらせたいから"

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す